アルツハイマー病の危険度が2倍?糖尿病対策は認知症予防に不可欠

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日本国内の高齢化とともに増加している病気が、アルツハイマー病です。現在、認知症患者さんの5割がアルツハイマー病で、脳血管障害を伴うアルツハイマー病を合わせると7割程度占めているといわれています。アルツハイマー病は初老期以降に発症し、脳が萎縮する病気です。進行すると記憶障害や、食事を作ることが困難になるなどの遂行機能障害が起こるようになります。最終的には寝たきりの原因となり、誤嚥性肺炎によって命を落とす患者さんも少なくありません。アルツハイマー病は、加齢とともに脳にアミロイドβたんぱく質(以下、アミロイドβと略す)と呼ばれるたんぱく質が沈着し、老人斑といわれるシミが脳にできることが病気の始まりと考えられています。しかし、老人斑があってもアルツハイマー病ならない人がいます。その違いは、リン酸化タウと呼ばれる物質が神経原繊維変化として脳に蓄積しているかにあります。リン酸化タウは、タウたんぱく質が化学反応を起こし、リン酸化した物質です。

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アミロイドβはアルツハイマー病を発症する10~20年前から脳にたまりはじめます。また、リン酸化タウもアルツハイマー病の前段階の軽度認知症(MCI)の段階においても脳脊髄液中で増加していることが確認されています。つまり、アミロイドβとリン酸化タウの毒性が合わさって、アルツハイマー病が発症するのです。では、どのような人がアルツハイマー病を発症しやすいのでしょうか。原因の1つとして、アルツハイマー病は先天性的要因が大きく関係していることが確認されています。「APOEε(エプシロン)4」と呼ばれる遺伝子を持っている人は、脳に老人斑ができやすいことがわかっています。

先天的余韻だけでなく、糖尿病や中年期の高血圧などの後天的要因によっても、アルツハイマー病になる危険性が高くなります。糖尿病でない人に比べて、アルツハイマー病を発症する危険度は2倍も高くなるのです。食事などで炭水化物をとると、血液中に糖(グルコース)が増加し、血糖値が高い状態になります。血液中の糖を筋肉のエネルギーに変える働きをするのが、膵臓から分泌されるインスリンと呼ばれるホルモンです。しかし、肥満になると筋肉においてインスリンが効きにくくなります。インスリンの働きが悪くなることを「インスリン抵抗性」といいます。糖尿病の発症には、インスリン抵抗性が深く関係しています。

福岡県久山町の住民を対象にした久山町研究という大規模研究では、中年期にインスリン抵抗性があると、後々の神経変性突起を伴う老人斑の形成が多くなることが指摘されています。私たちの研究グループは、アルツハイマー病と糖尿病の関係を調べるため、動物実験を行いました。実験では、APPというアミロイドβ前駆体たんぱく質が過剰なため、老人斑のできやすいマウスを使用。老人斑があるマウス、老人斑と糖尿病が合併したマウス、糖尿病だけのマウス、通常のマウスで比較しました。その結果、老人斑と糖尿病が合併しているマウスに認知機能の低下が認められたのです。糖尿病のマウスはそうでないマウスに比べて、タウたんぱく質がリン酸化しやすいことが多くの研究で示されています。この結果は、糖尿病患者さんがアルツハイマー病になりやすいことと関係しています。

また、糖尿病を併発しているアルツハイマー病の患者さんは、アルツハイマー病のみを発症している患者さんと病状が異なることが指摘されています。糖尿病を併発すると、注意力や判断力をつかさどる前頭葉に障害が出やすいことが確認されています。アルツハイマー病の発症は、遺伝などの先天的要因も関係していますが、糖尿病などの後天的要因も深くかかわっています。適切な食習慣や継続的な運動で発症を遅らせることが可能ではないかと考えられます生活習慣を改善し、糖尿病を予防することが、アルツハイマー病の予防・進行防止につながると考えています。

里 直行先生(大阪大学医学部寄附講座准教授)

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