海藻に糖尿病の予防効果がありました!日本海沿岸に分布するツルアラメに注目!
あなたは"ツルアラメ"という海藻をご存じですか。ツルアラメはコンブの仲間です。日本海沿岸に広く分布しており、私が助教を務める弘前大学のある青森県でも、非常に多くのツルアラメを採ることができます。
ツルアラメは、植物のツルのような匍匐系を持ち、繁殖力が高いことでも知られています。青森県大間町では、繁殖力の高さからツルアラメが大量に増殖し、コンブやワカメの漁場に侵食していました。特に高値で取引されるマコンブの生育を阻害することは、地元の漁協にとって大きな問題となっていました。
ツルアラメは苦味やエグ味があり、食品としての価値は低いものでした。"海の雑草"ともいうべき厄介者だったのです。
そこで私は、ツルアラメの付加価値を高めるため、大間漁業協同組合と共に研究を進めました。その結果、ツルアラメにはポリフェノールが非常に多く含まれていることがわかりました。ポリフェノールとは、植物の光合成によってできる色素や苦味の成分で、動脈硬化や脳梗塞を防ぐ抗酸化作用などに優れていることがわかっています。赤ワインに多く含まれていることでも知られています。
ツルアラメに含まれるポリフェノールの量はほかの海藻と比べても突出して多く、コンブの約10倍にもなります。ツルアラメの健康機能に注目が集まり、食用に適した調理法なども考案されるようになってきました。
現在、ツルアラメは大間漬けやふりかけ、ラーメンなどに利用されており、特産品として出荷量や取引額が年々増加しているのです。
昨今では、フコキサンチンという成分に注目が集まるようになってきました。コンブなどの褐藻類のみに含まれる成分で、ガンを死滅させるアポトーシス作用や抗腫瘍作用が確認されています。抗肥満作用もあり、糖尿病に対しても効力を発揮するのではないかと考えられています。
フコキサンチンには様々な力が秘められているのですが、大きな問題もあります。それは、乾燥させた褐藻類の重量に対して、わずか0.1%程度しかとることができない点です。褐藻類の代表的な存在であるコンブ自体の取引額が高く、フコキサンチンの機能性に特化したサプリメントを開発しようとすると、原価が高くなりすぎてしまうのです。一方、ツルアラメは繁殖力が高く、大量に採ることができます。私はツルアラメが含むフコキサンチンにも注目するようになりました。
私は、ツルアラメに血糖値を抑える効果があることを調べるために、マウスを使った実験を行いました。糖尿病にしたマウスに、大間産のツルアラメから抽出した成分を含んだ飼料を3週間与えました。そして、ツルアラメから抽出した成分を含んでない飼料を与えたマウスと血糖値を比較したのです。
飼料に含まれるツルアラメの割合は、0.5%と、1.0%との2パターンを用意しました。その結果、ツルアラメの成分を含んだ飼料を食べたマウスに比べ、ツルアラメの成分を含んでいない飼料を食べたマウスに比べ、ツルアラメの成分を含んだ飼料を食べたマウスは、2パターンとも明らかに血糖値が抑えられていることがわかりました。いわゆる中性脂肪である血しょうトリアセルグリセロールについても抑制効果が確認できました。
ツルアラメの研究は今後も進め、食品やサプリメントへの応用にも更なる広がりを見せていくのではないかと期待しています。
青森県は、日本海と太平洋、津軽海峡に陸奥湾と、海に囲まれた地方です。世界自然遺産の白神山地や荘厳さ知られる八甲田山系も有し、自然の豊かさでは全国屈指でしょう。青森県の食料自給率は112%。農林水産業が盛んな県でもあります。
私が兼任教員を務める弘前大学地域共同研究センターでは、ツルアラメをはじめとした様々な産学官連携の研究に取り組み、今後も地域の人たちの健康向上に貢献していきたいと考えています。
前田隼人先生(弘前大学農学生命科学部生物資源学科助教)