家族みんなで外食を楽しみたい!腎臓病でも食べられる感動の地産地消フレンチ料理店に行ってきた[2/2]

動画でわかるオーベルジュ・エスポワール

「最寄りのJR茅野駅の標高は790㍍。当店は標高1300㍍に位置しています。乾燥していて、朝晩の日較差が大きいのが気候の特徴といえるでしょうか。キノコやアスパラガスなど、長野県は食材の宝庫で、レモングラスやミント、セルフィーユといったハーブも採れます。この時期の旬はレモングラスです。本日の料理には、地元の方から今朝仕入れたばかりのレモングラスも取り入れています」

家族みんなで外食を楽しみたい!腎臓病でも食べられる感動の地産地消フレンチ料理店に行ってきた[1/2]

フードコーディネーター・鮎澤さんの話を聞きながら、私たちは厨房に移動しました。調理台には計量された食材や調味料が並んでいます。1~2ヵ月ごとに変わる、旬の地元食材を中心としたメニューを提供しているオーベルジュ・エスポワール。取材時(4月11日)のコースは、以下の内容でした。メニューを見て、「ほんとうにこれが腎臓病食なのか」と驚きました。結論を先にいうと、かなりの少量をイメージしていた腎臓病食ですが、満腹感も得られました。

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―Menu―

ジャガイモとムール貝の小さなミルフィーユ

ホタルイカとウドのマリネ 柑橘の香り

松本一本ねぎのグラタンスープ

真鯛と蕪のヴァプール マスタードソース

信州産アスパラと塩尻産黒毛和牛ハラミのポワレ

蓼科産フルーツホウズキのミルフィーユ

パート・ド・フリュイ 信州産ブラックベリーと信州産リンゴ

フスマ粉香る低たんぱくパン1個分

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オーナーシェフの藤木徳彦さんに教わった、調理の知恵や工夫をご紹介していきましょう。フレンチの調理法の一つに、「プティ・サレ(直訳:少量の塩)」という技法があります。腎臓病の患者さんは、たんぱく質や塩分などの摂取量が厳しく制限されています。塩尻黒毛和牛ハラミのポワレには、プティ・サレの技法が活かされていました。ごく少量の塩(ナトリウム232mg、カリウム147mg)を前日に振って、下ごしらえを済ませておくのがポイントです。時間を置くことで雑味が消え、火を入れるときに塩が肉からこぼれ落ちるのを防ぐこともできるそうです。

肉は弱火で焼き上げていきます。限られたたんぱく質で貴重な肉の身縮みを防いで、盛りつけた後の見た目でもお客さんに満足してもらいたいという思いがあるからです。じっくり焼くことで、脂が肉から染み出てくるというメリットもあります。栄養計算に含まれている脂を使って、低たんぱく米(でんぷん米)のガーリックライスを作っていきます。ガーリックライスにアクセントを加えているのが、朝採れのレモングラスです。

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"おいしい腎臓病食を提供したい"という思いは、手作りパンへの強いこだわりからも伝わってきました。これまでに患者さんから「いま、手に入る低たんぱくパンがおいしくない」という声を何度も聞いてきたという藤木さん。少量の小麦粉でおいしいパンを作ろうと、試行錯誤を重ねてきました。小麦の成分を最大限に生かすために低温で長時間熟成させ、少量のグルテンでねばりや香り、そしておいしさを引き立たせたパンの開発に成功したそうです。「現段階で最善の製法で提供していますが、さらにおいしいパンを作りたい」と、藤木さんは話します。

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家族で同じ料理を食べたいという要望に対し、料理の出し方にも工夫が見られました。例えば、パイ生地に包んだ料理はテーブルの前で切り分けているそうです。腎臓病の患者さんにだけ、別メニューが運ばれてくるわけではありません。家族みんなでフワッと広がる香りから、食事を楽しむことができるのです。腎臓病食コースの一つひとつは、通常メニューよりも量が少なくなってしまいます。オーベルジュ・エスポワールでは、お客さんの満足度を高めるために、皿のチョイスや立体感のある盛りつけ方も常に研究・改良しているといいます。

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腎臓病食のコース内容や栄養計算はホームページで公開されていますが、オーベルジュ・エスポワールは予約制となっています。患者さんごとに異なる病状、服用している薬などを事前にきちんと把握する必要があるからです。安心しておいしい食事を提供するために、腎臓病の勉強会にも積極的に参加しています。スタッフ間で情報を共有して、お客さんに不安を与えないように努めているそうです。

最後に、印象に残っているお客さんとのエピソードを尋ねると、次のような答えが返ってきました。

「ご主人が一年ほど前に腎不全になり、厳しい食事制限を続けてきたというご夫婦の話です。奥さまは、食べることや料理を作ることに対して罪悪感を持っていたといいます。久しぶりの外食。涙ぐみながら、お二人が食事しているところを見ていました。涙ぐみながらも、会話は弾んでいます。同じものを食べることで自然と会話は生まれ、同じ話題で盛り上がることができるのです。強いやりがいを感じました。おいしい食事を提供するのは、料理人の使命です」

オーベルジュ・エスポワールでは、質問があれば、家庭で腎臓病食を調理するときの工夫をお客さんに伝えているとのこと。お客さんとの信頼関係は、こうした取り組みからも生まれています。

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オーベルジュ・エスポワール

〒391-0301 長野県茅野市北山蓼科中央高原

Tel & Fax:0266-67-4250

E-mail:espoir○po23.lcv.ne.jp(○を@に変えてください)

※患者さんごとにステージや病状が異なるため、低たんぱく食事メニュー(腎臓病食)は事前の予約が必要です。体調や食事制限の内容について、事前に電話で打ち合わせしています

※オーベルジュ・エスポワールは宿泊可能(3部屋)。腎臓病の患者さんを持つ家族が旅行するときの拠点としても喜ばれています

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◑取材を終えて

地元の生産者を自ら訪ねて回り、採れたての旬の食材(しかも、その日の朝!)を提供しているオーベルジュ・エスポワール。信州には生産量日本一という食材が多く、地産地消の腎臓病食を提供する上で恵まれた場所なのだと気づかされました。また、おいしい腎臓病食を届けたいという情熱とともに、なかなか表には出てこない料理人の努力を知り、感動しました。食べる喜びは生きる喜びという人がいます。その喜びを家族で共有できるのは、素晴らしいことだと思いました。

(取材:若林沙織)

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