免疫力がアップして関節痛や神経痛も改善!"温活"で注目のHSP入浴法で体温が上がる
近年、低体温の人が増えています。自分の意思で動く骨格筋という筋肉が生産しているのが、活動時の体温です。骨格筋が生産する熱は体温の60%になります。つまり、筋肉を動かしてできる熱が体温の源というわけです。最近、日常生活で体を動かす機会が減少しています。その結果、熱の産生が少なくなり、低体温の人が増えてきたのです。一般に36℃以下を低体温といいます。現在は35℃台の人も珍しくなく、がん患者さんなどの例では34℃台の低体温という人もいます。
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私たちの体の代謝をつかさどっているのは酵素です。体は酵素の働きで成り立っています。酵素が最高に活性を示すのは37℃。36℃、35℃では充分な酵素の活性が得られず、体はだるく疲れやすくなります。これが長期間続けば、いろいろな病気につながってしまいます。低体温が体によくないといわれるゆえんです。
体温が36℃以下であれば、「HSP入浴法」を始めましょう。低体温が改善されるとともに、ヒートショックプロテイン(HSP)も増加します。HSPは1962年、イタリアの遺伝学者・リトッサ博士がショウジョウバエの実験で発見しました。その後、多くの研究で、大腸菌・野菜・動物・ヒトとあらゆる生物がストレス防御のたんぱく質としてHSPを備え持つことが判明しました。ストレスも熱ストレスのみでなく、加圧、低酸素、紫外線、飢餓、精神的ストレスなど、さまざまなストレスでHSPは増加します。HSPは、ストレスでの傷害を修復するため、ストレスで増えるのです。HSPには大きく、3つの働きがあります。1つは、体を守る作用。特にストレスから守ってくれるストレス防御作用です。私たちの体は水分を除けば、ほとんどがたんぱく質です。ストレスを受け傷害されたたんぱく質をHSPが修復してくれるので、体も元気になります。
2つめは免疫増強作用です。体を温めると白血球が増加して免疫力が高まるとともに、HSPがNK(ナチュラルキラー)細胞など免疫細胞の働きを増強します。ウイルスや病原菌に対する抵抗力が増すのです。HSPを高めるHSP入浴法やマイルド加温療法は、がん患者さんの免疫も高めてくれる治療法です。
3つ目は分子シャペロン作用。HSPは、たんぱく質の合成から分解までたんぱく質に介添えし、たんぱく質を助けます。シャペロンとは、フランスの社交界でデビューする若い貴婦人の介添えをする年配の婦人のことをいいます。まさにHSPは、たんぱく質のシャペロンといえるのです。アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難治性疾患は、たんぱく質の構造異常が原因です。アルツハイマー病はアミロイドβたんぱく質が構造異常を起こす認知症です。このようなたんぱく質の構造異常を修復するHSPは、治療に大いに期待されています。HSP入浴法で得られるHSPはわずかですが、発症予防に日ごろからの入浴をおすすめします。
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HSPは、細胞が死ぬほどではない優しいストレスを与えると増加します。小さなストレスで大きなストレスを防ぐというわけです。私たちは、いろいろなストレス実験でHSPの変動を検討してきました。その結果、体を温める(熱ストレス)方法で、最も効率よくHSPを増加させるHSP入浴法(医療面では加温装置を利用したマイルド加温療法)を確立することができました。HSP入浴法は、入浴時の体温を38℃にすることを目標にします。入浴時間は42℃なら10分、41℃なら15分、40℃なら20分(入浴剤の使用で15分)です。途中で湯ぶねから出ても、合計でその時間になるようにしてください。高齢の方は無理をせず、最初は時間や温度を低めにしてください。半身浴もおすすめです。
HSPは、入浴後2日をピークに1~3日ほど増加し、1週間後には元に戻るので、週に2回行えば、HSPは常に体内で増えた状態になります。低体温の人は、40~42℃の温度で入浴するHSP入浴を毎日1週間ほど続けてください。体温の改善後は週2回で十分です。HSP入浴法の実践には、浴室を温める、湯上り後は体が冷えないように保温する、水分補給を忘れない、などに気をつけましょう。HSP入浴法の詳細は『ヒートショックプロテイン 加温健康法』(法研刊)を参考にしてください。HSP入浴法では痛み緩和物質のエンドルフィンが増え、痛みが和らぎます。疲労の蓄積を防ぐ効果も期待できるでしょう。
伊藤要子先生(修文大学健康栄養学部教授)