産学官連携で開発された放射線治療装置はチーム医療で力を発揮する

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ガンの3大療法の一つである放射線治療。「早期発見して、患部を切除する」という方針から、放射線治療を初回治療に選択する患者さんは多くありませんでした。体を切らずにガンを叩ける放射線治療を、より安全に、そして確実に行えるように、産学官のチームで開発されたのが放射線治療装置「Vero4DRT」。開発の中心となった京都大学大学院教授の平岡真寛先生のお話しをご紹介します。

1995年の時点で、ガンの初回治療に放射線治療を選ぶ患者さんは約15%。当時の欧米諸国では60%であることを考えると、とても低い数字でした。その後、2005年には25%、現在では33%が初回治療で放射線治療を選ぶようになりました。放射線治療に関する知識の高まりや、体の負担が大きい治療を受けられない高齢の患者さんが増えたことなどが関係しています。

放射線治療を選択する患者さんが増えた背景には、技術の進歩も関係しています。現在、病巣に対して多方向から放射線を集中して照射する定位放射線治療、腫瘍の形状に合わせて放射線を照射する強度変調放射線治療といった放射線治療の技術が確立しています。これらの治療法により、局所制御率も上がってきました。局所制御率とは、治療により腫瘍が縮小した、もしくは腫瘍の成長が止まった割合のことです。早期のガンで局所制御率は9割を超え、治療後の生存率も向上しました。副作用を抑えることにもつながっています。

私たちは、放射線治療をより安全に、そして確実に行えるように、産学官連携で「Vero4DRT」を開発しました。"ものづくり大国"である日本の技術力を活かした放射線治療装置です。最先端の技術を取り込み、従来の技術よりも高い精度で腫瘍だけに放射線を照射できるようになりました。現在、6つの病院で使われています。

京都大学附属病院には、私がセンター長を務めるがんセンターが併設されています。大学病院内にがんセンターができたのは、日本では初めてのことでした。世界的に見れば、これはめずらしいことではありません。高齢のガン患者さんは、糖尿病などほかの病気を併発していることが多いからです。ガンの専門病院では、ほかの大きな病気を発症したり、合併症が起きたりしたときはお手上げになってしまいます。

日本のガン治療では、初診で外科にかかると、多くの患者さんはほかの選択肢を示されることはありません。外科手術ありきの治療になってしまうのです。初めにかかる診療科によって治療方針が決まることが多いのに対し、京都大学附属病院のがんセンターでは、外科と放射線、化学療法を行う医師がチームを組み、カンファレンスを行っています。患者さんもきちんと説明を受けたうえで、治療法を選択できるようになりました。チーム医療では、患者さんの治療効果を高めること、体への負担を軽減することができると考えています。

チーム内で情報を伝え合えば、私たちも新しい気づきを得ることができます。例えば、外科の医師はどのような視点でガン治療と向き合っているかなど、多くのことを学べるのです。私たちの活動がモデルとなって、チームでのガン治療が全国に浸透していくことを期待しています。

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