進む医療の国際化!世界に誇る日本の重粒子線治療は国内外のがん患者を救えるか

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最新の回転ガントリー装置(撮影・滝口貴光)

世界一の長寿国である日本の医療技術は、海外からも注目されています。その一つが「重粒子線がん治療」。重粒子線とは、「ヘリウム以上の元素をイオン化した後、加速器で光速近くまで加速して作られる放射線の一種」です。重粒子線がん治療は現在、千葉県や群馬県、兵庫県や佐賀県といった国内5ヵ所で受けることができます。

世界で初めて重粒子線がん治療装置の開発に成功したのが、国立研究開発法人放射線医学総合研究所(千葉市)です。がん治療の分野で研究や臨床試験を重ねてきた重粒子線がん治療は2003年10月、厚生労働省によって「先進医療」として承認を受けました。今回、重粒子線がん治療について、放射線医学総合研究所重粒子医科学センター長の鎌田正先生にお話しを伺いました。

「重粒子線がん治療に使われているのは炭素イオン。とてもとても小さなダイヤモンドの粒のようなものです。ダイヤモンドの粒を体内のがん目がけて飛ばしていきます。重粒子線をどこまで飛ばして、どこで落とすか――。投げた石を水面で跳ねさせる水切りを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。重粒子線ががん細胞だけに当たるように、投げるときの力加減などを調整していきます。重粒子線には、X線よりも2~3倍強いがんの破壊力があります」

X線や速中性子線は体の表面で線量が高く、体の深いところになるにつれて線量が低くなるため、がんの周囲にある正常細胞にもダメージを及ぼします。一方、重粒子線はがんだけをピンポイントで破壊できます。線量は体の浅いところでは低く、体の奥の一定の深さで最も強くなり、それよりも奥には進まない性質があるからです。これは副作用を最小限に抑えられることも意味しています。

「重粒子線がん治療を行うためには、がんがどこにあるか正確に把握しておく必要があります。がんの大きさや位置を3次元で特定できるCTの技術とともに、重粒子線がん治療の精度も上がっています。重粒子線を照射するときは、呼吸も意識する必要があります。呼吸によってがんの場所が微妙に変化するからです。現在、吸う、吐くといった呼吸時の体の動きも計算したうえで、重粒子線を照射しています」

これまでに9000人以上が受けてきた重粒子線がん治療。実際に、高い効果が報告されています。治療の有効性は、「局所制御率」で評価されます。局所制御率とは、治療により腫瘍が縮小した、もしくは腫瘍の成長が止まった割合のことです。いくつか例を挙げると、早期非小細胞肺がんの3年局所制御率は90%以上。肝臓がんでは85~95%、前立腺がんではほぼ100%という結果が出ています。

「重粒子線がん治療は、発見時に末期まで進行していることの多い膵臓がんにも有効です。2年後の生存率は通常の2~2.5倍まで上がっています。ただし、胃や腸など消化器のがんには向きません。消化器は常に複雑に動いているため、ピンポイントで照射するのが難しいからです。胃や腸の壁に穴を開けてしまう可能性があります。転移しているがんも、残念ながら対象にはなりません。いずれにしても、がん治療では最適な治療法を組み合わせるベストミックスという考えが重要です」

2016年1月8日には、360度、任意のどの角度からでも重粒子線を照射できる小型・軽量の「回転ガントリー装置」という新型装置がお披露目されました。日々進化している重粒子線がん治療。近年、アジアや中東など海外の患者や家族からの問い合わせや受け入れも増えているそうです。

日本は2014年より、「医療機関における外国人患者受入環境の整備」に乗り出しています。2020年の東京オリンピックに向けて訪日外国人のさらなる増加が見込まれる中、日本人向けに先進医療を提供してきた医療機関でも国際化の動きが加速していくかもしれません。

なお、重粒子線がん治療を受けるには、病状についていくつかの条件を満たしている必要があります。くわしくは、重粒子医科学センター病院のホームページをご参照ください。

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重粒子医科学センター・鎌田正センター長

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