入湯数4700ヵ所を超える"温泉教授"が解説!温泉が体にいい三つの理由

温泉を知り尽くした温泉教授が、独自の研究と考察から「還元力」「抗酸化」をキーワードに国内11ヵ所の温泉を厳選。「痛みに効く」と松田忠徳教授が太鼓判を押す全国の温泉を発表します
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入湯数4700ヵ所を超える"温泉教授"が解説!温泉が体にいい三つの理由

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日本人と温泉の関係は縄文時代にさかのぼり江戸時代には湯治が庶民の間で普及した

世界有数の火山国である日本は、優れた温泉が多い国といえます。私たち日本人は、長い年月にわって温泉の恩恵を受けてきました。日本人と温泉の関係は非常に古く、6000年前の縄文時代までさかのぼります。

武田信玄や豊臣秀吉、徳川家康といった戦国武将が温泉をケガや病気を治癒するために使っていたのは有名な話です。その後、江戸時代になると、庶民の間で温泉をさまざまな疾患の予防や治療に活用する「湯治 」が広まるようになりました。

温泉の多くは雨水から作られます。雨が地下に浸透すると、数千㍍の深さにある岩盤層に溜まります。岩盤層の下には600~1300度Cという高温のマグマ溜だまりがあり、浸透した雨水は熱されます。岩盤層にはさまざまな鉱物やガスが含まれています。これが温泉に含まれる成分のもとです。その後、熱せられた水は比重が軽くなり、地表に向かって上昇し、地上に噴き出してくるのです。

現在、国内には3000ヵ所余りの温泉地があり、それぞれが個性あふれる泉質を有しています。温泉の泉質といえば硫黄やカルシウム、ナトリウムといった成分が思い浮かびますが、含有成分や量、比率は温泉によってさまざまです。

私はいままで、一日たりとも病気やケガで入院したことはありません。仕事が忙しくて調子をくずしたときは、温泉に入ることで治してしまいます。私の場合、本来なら治療が必要な、ぎっくり腰や痛風、尿管結石も、温泉で治してしまいました。

私は以前、「源泉かけ流し」という言葉を考案し、普及に努めました。現在では一般的な言葉になった、源泉かけ流しは、私が温泉を選ぶうえで特にこだわっている点です。

私が定義する源泉かけ流しは、以下のような温泉にあてはまります。

  • ● 常に新しい湯が浴槽に注がれていること
  • ● 注がれたぶんの湯が浴槽の外にあふれていること
  • ● あふれた湯を浴槽に戻していないこと
  • ● 湯量の不足を補うために、浴槽内で湯を循環させないこと

 
闘病中の人や健康に敏感な人の中には、食材や飲料水の〝鮮度〟にこだわる人が多いかと思います。食材や水は空気(酸素)にふれると酸化が始まり、劣化していくからです。

同じように、空気にふれた温泉水も酸化します。温泉水は地下深くの岩盤層にある時点では空気にふれていません。地表に近づくにつれて空気にふれるようになり、酸化が始まるのです。これを温泉の老化現象といいます。酸化した温泉水は活性力を失います。効能を得るには、湧きたての活性力のある温泉水が欠かせないのです。

近年の温泉ブームに伴って、国内にはさまざまな温泉施設が増えました。なかには、湯をくり返し使う循環システムを利用した〝マガイモノ〟の温泉も多く存在します。湯治を目的に温泉に行くのであれば、源泉かけ流しという〝ホンモノ〟の温泉に足を運んでください。

温泉がもたらす効果については、さまざまな理由が考えられます。今回はわかりやすく、以下の三点を挙げてみます。

①温熱効果

最もよく知られている温泉の働きとして、温熱効果があります。温泉に肩までつかって5〜6分もすると、顔から汗が吹き出してきます。これは、血液の流れがよくなった証拠です。温泉に入ると血液の循環やリンパ液の流れがよくなって、体のすみずみまで血液や体液が流れるようになります。その結果、老廃物が排出されるようになり、体がきれいになっていくのです。

温泉に入って体が温まると、HSP(ヒートショックプロテイン熱ショックたんぱく質)というたんぱく質が増殖します。HSPは、全身の細胞を修復するたんぱく質として、近年、研究が進んでいます。「体を温めることが体にいい」といわれるのは、HSPの存在があるからです。HSPが増えると免疫力も高まることが確認されています。

HSPは、自宅で入浴しても増殖しますが、自宅のお風呂は浴後の体の冷えが早いのです。温泉は温まるのが早いだけでなく、浴後の保温効果が長く持続するので、お風呂から上がった後もHSPの効果が維持でき、それだけ細胞の修復が可能になります。効率よくHSPを増やすには、温泉に入るのがベストなのです。

健康な体に導く温泉の秘密は強い〝還元力〟にあると最新の研究で判明

②還元(抗酸化)効果

温熱効果に加えて、私が注目しているのが、温泉が持つ優れた還元(抗酸化)作用です。

これまでの温泉に関する研究は「成分至上主義」でした。ミネラルやナトリウムといった成分の量を調べて、温泉のレベルを判断していたのです。

ところが、国内には「単純温泉」と呼ばれる、含有成分が非常に少ないのに、湯治場として長い歴史を持つ温泉が多数存在します。 山口県の俵山温泉に代表されるように、リウマチや関節痛、神経痛に絶大な効果をもたらす単純温泉もあるのです。これは、ミネラルやナトリウムの含有量だけで温泉の効果が決まるのではないことを示しています。

自他ともに温泉研究の第一人者を認める私が研究を重ねた結果、温泉が持つ〝還元力(抗酸化力)〟こそが、健康をもたらす決め手になると考えるようになりました。

私たちの体を老化させる大きな要因に活性酸素(酸化作用の強い酸素)があります。酸化は「サビ」と置き換えるとわかりやすいでしょう。くぎがサビてもろくなるのと同じように、私たちの体も活性酸素によって酸化ストレス状態に陥ると、細胞膜の主要な素材である脂肪酸を過酸化脂質にして、がんや生活習慣病をはじめとするさまざまな病気を引き起こします。

酸化された状態を元に戻す反応を「還元」といいます。私たちの体には、酸化した細胞を元に戻すための抗酸化物質(酵素) が存在し、体内で還元が行われています。とはいえ、現代人は加齢や食生活を含めた生活の乱れによって還元力が低下しているため、病気にかかりやすい状態にあります。

私が行った研究から、優れた温泉は還元力が非常に強いことがわかりました。例えば、前述した俵山温泉の場合、温泉水に天然の水素が含まれていることがわかっています。 宇宙で最も小さな元素である水素は、酸素と結合すると水になります。酸化した物質に水素を与えると水に変化し、無害化することができます。つまり、水素は極めて安全な方法で、体内の活性酸素を還元することができるのです。

劇的な効果・効能を発揮する温泉の秘密――それは、温泉法の成分表に表示されない「水素」 にあると、私は考えるようになりました。実際に被験者を対象にした試験で俵山温泉の効果を調べてみたところ、末梢動脈の血流量は入湯前後で2.3倍に、平均血流量は同じく3.8倍という驚きの結果が出ました。白血球に含まれるリンパ球や顆粒球、マクロファージ(大食細胞) の数値も、入湯後に改善傾向が見られています。冷えやむくみ、 肩こり、疲労、肌荒れなどの血行障害からくる症状や高血圧、 痛みの改善までも期待できると考えています。

水素は極めて散逸しやすい物質です。温泉が持つ還元力の恩恵を受けるには、源泉かけ流しによって常に新鮮な温泉水が保たれている風呂に入ることです。

現在私は、産官学の共同研究という形で、還元力、抗酸化力を持つ温泉の研究を進めています。温泉に含まれる物質の中で、水素のほかにも硫化物のような抗酸化作用を持つ還元物質があるかどうかを調べています。これは、従来の温泉研究の概念をくつがえす研究内容といえます。温泉の抗酸化作用によって〝万病の元〟といわれる活性酸素の消去・抑制を確認しています。

薬にできない役割を持つ温泉は〝予防医学〟の切り札で日本が世界に誇る国家的な財産

③脳や自律神経への影響

自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)には交感神経(心身を活発にする神経)と副交感神経(心身をリラックスさせる神経)の二つがあり、一日の中でシーソーのようにバランスを保つことで健康を維持しています。

さまざまな原因から痛みの治療を受けている人は、鎮痛剤やステロイド剤などの薬を服用していることが多いと思います。 自律神経と免疫力の関係を解明した新潟大学の安保 徹名誉教授は、「日常的な薬の使用は交感神経を過剰にさせる」と指摘されています。さらに多くの薬は、細菌やウイルスを撃退するために活性酸素を発生させます。

日常的に薬を飲んでいる人こそ、温泉をおすすめします。温泉に入るとリラックスして眠くなりますが、これは副交感神経が刺激されている状態。温泉に入ることで、痛みや薬によって過剰になっている交感神経の働きが抑制されて、自律神経のバランスが整えられていきます。 その結果、免疫力が向上し、治癒力も高まるのです。

温泉につかって「気持ちいい」と感じることはとても大事です。気持ちよさを感じた瞬間、脳内では神経伝達物質の一つであるセロトニンが分ぶ泌されています。 セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンなどの活動的な神経伝達物質の働きをコントロールして、精神のバランスを保ちます。ストレスの多い現代人にとって、温泉は精神的なリラックス効果も期待できるのです。

超高齢社会を迎えている日本では、医療費を抑えるために国家的なレベルで予防医学の必要性が叫ばれています。私は、「人間の幸せは健康であること」「温泉こそが予防医学に貢献できる国家的な財産」「温泉には薬にできない役割がある」と、以前から発言しています。科学的・情緒的の両側面から元気になれる温泉の力を、もっと活用してほしいものです。

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東日本編

北の隠れ湯で抗酸化体質に変身
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寿都温泉(北海道寿都郡)

【泉質】

酸性硫黄泉(硫化水素系)

【温度】

48℃

【特徴】

町営の日帰り入浴施設「寿都温泉ゆべつのゆ」の入湯料は500円(大人。 中学生以上)。松田忠徳教授が「還元力が極めて高い温泉」として注目し、研究 を進めている。

【交通】

JR函館本線札幌駅または小樽駅より中央バスに乗り換え。JR函館本線長 万部駅または黒松内駅よりニセコバスに乗り換え。

【問い合わせ】

寿都町役場産 業振興課商工観光係(0136-62-2602)、寿都温泉ゆべつのゆ(0136-64-5211)


強い還元力を持つ抗酸化温泉
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高湯温泉(福島県福島市)

【泉質】

酸性・含硫黄・カルシウム・アルミニウム・硫酸塩温泉(硫化水素型)

【温度】

42℃~51℃

【特徴】

乳白色の硫黄泉が毎分3,000㍑以上も湧出。全国屈指の還元力の高さを誇る。吾妻山に代表される豊かな自然も魅力。高湯温泉観光協会内にある共同浴場「あったか湯」は、昔の湯治の湯屋をイメージした建物。大人250円という入湯料の安さも人気。

【交通】

JR福島駅から福島交通バスで約40分。

【問い合わせ】

高湯温泉観光協会(024-591-1125)


かけ流しの硫黄泉は新鮮さ抜群
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奥塩原温泉(塩栃木県那須原市)

【泉質】

硫黄泉

【温度】

新湯温泉は58℃~68℃
元湯温泉は40℃~52℃

【特徴】

栃木県北部の標高1000mの山あいにある名湯は、開湯から1200年以上の歴史を誇る。奥塩原温泉には新湯温泉、元湯温泉という2つの温泉があり、全国でも屈指の還元力のある硫黄泉として人気。大半の温泉施設で良質な硫黄泉が源泉かけ流しで楽しめる。

【交通】

JR那須塩原駅からJRバスで約65分。

【問い合わせ】

塩原温泉観光協会(0287-32-4000)


野沢菜が全国的知名度を誇る名湯
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野沢温泉(長野県下高井郡)

【泉質】

単純硫黄泉・含石膏・食塩・硫黄泉

【温度】

42℃~90℃

【特徴】

温泉街に点在する13ヵ所の外湯(共同浴場)は、100%源泉かけ流し。江戸時代から守られている外湯は、地元の人たちによって管理され、コミュニケーションの場として観光客にも人気。温泉場全体で30以上の源泉があり、すべてが自然湧出の単純硫黄泉。

【交通】

JR北陸新幹線・飯山線飯山駅より、のざわ温泉交通「野沢温泉ライナー」で約25分、もしくは長電バスで約40分。

【問い合わせ】

野沢温泉観光協会(0269-85-3155)


著名人も愛した東日本の名湯
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那須温泉(栃木県那須郡)

【泉質】

硫黄泉

【温度】

63℃~80℃

【特徴】

栃木県唯一の活火山・那須連山の主峰・茶臼岳(1,915㍍)が生み出す火山性温泉。源頼朝、日蓮、松尾芭蕉などの歴史上の著名人が療養や旅の途中で入湯したと伝えられている。それぞれの温泉で泉質が異なるため、効能別に湯めぐりができる。

【交通】

JR黒磯駅からバスで約35分、JR那須塩原駅よりバスで約60分。

【問い合わせ】

那須温泉旅館協同組合(0287-76-2755)


硫黄の含有量が日本一の白濁湯
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万座温泉(群馬県吾妻郡嬬恋村)

【泉質】

塩化物泉

【温度】

80℃

【特徴】

1日に540万㍑という豊富な湧出量を誇る。白濁、または黄濁した湯が特徴で、硫黄成分の含有量が日本一の温泉としても知られる。海抜1,800㍍ならではの雄大な自然と、四季折々の景色が一年を通じて楽しめるのも魅力。

【交通】

JR万座・鹿沢口駅からバスで約40分。JR長野新幹線・軽井沢駅から万座温泉行き路線バスもあり。

【問い合わせ】

万座温泉観光協会(0279-97-4000)


西日本編

西日本屈指の高濃度水素水温泉
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俵山温泉(山口県長門市)

【泉質】

アルカリ性単純温泉

【温度】

41℃

【特徴】

江戸時代からリウマチの患者が集まる湯治の名湯。アルカリ性単純温泉という泉質ながら、松田忠徳教授の研究によって、持続力の高い水素が高濃度に含まれていると判明。高い還元力が期待できると話題を集めている。

【交通】

JR山陽本線小月駅からバスで約70分、長門市駅からバスで約35分、JR美弥線長門湯本駅からバスで約20分。

【問い合わせ】

俵山温泉合名会社(0837-29-0001)


通称・ラムネ風呂の炭酸泉が人気
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長湯温泉(大分県竹田市)

【泉質】

含重炭酸土類泉、二酸化炭素泉

【温度】

40~45℃

【特徴】

「ラムネ風呂」と称される高濃度の炭酸泉が特徴で、飲泉文化も浸透。体じゅうに気泡が付着する炭酸泉は長時間に渡って保温効果が維持できる。良質な炭酸泉を提供するために、2006年に九州初の源泉かけ流し宣言を行い、新鮮な温泉水を提供。

【交通】

JR豊肥本線豊後竹田駅からバスで40~50分

【問い合わせ】

長湯温泉観光協会(0974-75-3111)


万葉の時代から人々を癒した名泉
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榊原温泉(三重県津市)

【泉質】

アルカリ性単純泉

【温度】

32~35

【特徴】

平安時代から湯治場として愛され、『枕草子』に存在を記されるほどの歴史を誇る。湯の色は無色透明。古くからリウマチや神経痛の患者が集まるだけでなく、湯に含まれる重曹成分が古い皮膚の角質取り除くため、美肌の湯としても人気。

【交通】

近鉄大阪線榊原温泉口駅よりバスで15分

【問い合わせ】

榊原温泉振興協会(059-252-0017)


熊野の緑と清流に守られた秘湯
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十津川温泉郷(奈良県吉野郡)

【泉質】

ナトリウム炭酸水素塩泉

【温度】

70℃

【特徴】

奈良県の最南端にある名湯。2004年に村役場が「100%源泉かけ流し宣言」を発表。村を挙げてかけ流しにこだわる。公衆浴場「星の湯」「庵の湯」、南部老人憩の家「憩の湯」は安価で利用が可能。アクセスが悪いぶん、秘湯気分を堪能できる。

【交通】

近鉄大和八木駅よりバスで約4時間

【問い合わせ】

十津川村観光協会(0746-63-0200)


泉質の異なる温泉が勢ぞろい
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霧島温泉郷(鹿児島県霧島市)

【泉質】

硫黄泉、炭酸水素塩泉、ナトリウム塩化物泉など

【温度】

温泉地によって異なる

【特徴】

九州有数の温泉地。 複合火山帯の霧島山系には数多くの温泉が湧出し、宿や温泉の雰囲気もさまざま。周辺には大型ホテルや旅館が並び、布引滝、千畳敷などの名所があるため、湯治の初心者に最適。

【交通】

JR日豊本線霧島神宮駅、またはJR肥薩線霧島温泉駅よりバスを利用。

【問い合わせ】

霧島市観光協会(0995-78-2115)


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