副産物が主役になった!将軍家に献上されていたスイゼンジノリから見つかったサクランの力

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熊本市の水前寺近くの池で発見されたことから名づけられたといわれるスイゼンジノリ。日本固有の淡水性藍藻で、福岡県朝倉市の黄金川など九州の限られた湧水でのみ育ちます。スイゼンジノリには、鉄、カルシウムなどのミネラルが豊富です。江戸時代から将軍家に献上されていた高級食材としても、スイゼンジノリは知られています。スイゼンジノリは現在、九州を中心にあらためて高い評価を得ています。

北陸先端科学技術大学院大学の岡島麻衣子先生は、スイゼンジノリからポリフェノールを抽出する実験を重ねていました。自身の地元で発見されたスイゼンジノリが"絶滅危惧"に分類されているのを知ったことが、研究を始めた動機だったといいます。ポリフェノール抽出の研究の過程で見つかった"副産物"が今回の主役です。副産物の名前は「サクラン」。スイゼンジノリの種名であるsacrumの語尾umを、多糖類であるという意味の接尾語anに置き換えた造語です。サクランは、自然界では過去に報告された例のない史上最大1,600万という巨大分子で、重量の約6,000倍の水を吸収する保水力を持つことが明らかになりました。

サクランの発見には、ちょっとした物語があったそうです。ポリフェノールの抽出を試みるたびに、スイゼンジノリの細胞を覆う寒天のような物質が確認されていました。それらはふだん捨てられていたとのこと。ある日、ビーカーを洗わずに研究室を出てしまった岡島先生。翌日、目を疑うような出来事に遭遇したといいます。ゼリー状の不思議な物体がビーカーからあふれていたのです。「洗いやすいように」と気を利かせた学生がビーカーに水を入れていたのがきっかけでした。サクランがビーカー内の水分をすべて吸収して、ゼリー状に膨れあがっていたのです。

サクランには肌に近い生理食塩水でも高い吸水性を維持する性質があることがわかっていきました。サクランの水溶液を肌に塗ると、細長い分子が均一に広がって、水分をたっぷり含んだ網目状の薄い膜を形成します。この膜が乾燥から肌を守ってくれることも明らかになっています。

結局、スイゼンジノリからポリフェノールを抽出することはできなったものの、新たな機能性素材が誕生しました。現在、サクランは化粧品の保湿剤として活躍しています。アトピー性皮膚炎の患者さんにも愛用されているそうです。

スイゼンジノリの研究は、環境問題に一石を投じる役割も果たしました。水量の減少や水質の悪化が原因で絶滅の危機に瀕していたスイゼンジノリ。サクランの機能性が知られるようになった結果、黄金川周辺や熊本県嘉島町で至難の業といわれていた養殖が行われるようになったそうです。その土地の歴史や文化、環境問題などにも目を向けてみると、ふだん何気なく使っている製品の新たな価値や魅力に気づかされるかもしれません。

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