皮膚科医に学ぶ!アトピーから肌を守るメイクアップの基本とスキンケア
アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと省略)の患者さんが肌に合わない化粧品を使ってメイクをすると、症状を悪化させる危険性があります。しかし、重症でなければ、メイクは心身によい効果をもたらすという考えが、いまの医学界の主流になっています。メイクをすると皮膚の赤みなどを隠すことができるため、自信を取り戻すことができます。自信がつくとさまざまなことに対して前向きに取り組めるようになり、人前でも堂々とふるまえるはずです。メイクをくずさないために、むやみに顔を触らなくなる効果もあります。顔がかゆくなっても、ちょっと我慢してかきむしらないようにするという"いいクセ"がつきやすくなるのです。このように、メイクはアトピーの患者さんの生活の質(QOL)を高めてくれます。メイクに対してネガティブな印象ばかり持たず、ポジティブにとらえたほうがメリットは大きいといえるでしょう。
使う化粧品は、どのようなものでもいいというわけではありません。肌への刺激が少ない化粧品を選ぶ必要があります。「無添加」や「敏感肌」などとうたった化粧品は数多くあります。どれが安全で自分の肌に合うか迷ってしまいそうですが、判断が難しい場合は主治医や化粧品店のスタッフに相談するといいでしょう。
アトピーの患者さんの場合、症状に合わせてメイクの範囲やしかたを変えるようにすることが大切です。炎症が悪化して肌がジュクジュクしているときは、マスカラや口紅などポイントメイクだけにしましょう。ファンデーションは使わないでください。メイクを落とすときに化粧の洗い残しは肌に悪いからといって、専用オイルやジェルなどで、ゴシゴシと洗ってはいけません。肌を痛めて、アトピーを悪化させる原因になります。クレンジング剤をつけた後、肌に優しいタッチで洗い流しましょう。
アトピーの患者さんは、肌に赤みなどの症状が出ていなくても、刺激に対して敏感になっています。症状が治まっていても、保湿剤などを使ったスキンケアを続けるようにしてください。スキンケアをするときは「適度な清潔」を心がけましょう。皮膚の表面についたハウスダストやあか、ホコリ、ダニのなどはアトピーの大敵です。しかし、刺激が強い薬用せっけんで体をゴシゴシ洗うと、皮膚の表面を覆うバリア(防壁)の役割を果たしているや角層を壊してしまいます。皮膚が乾燥し、肌の状態も悪くなってしまうのです。
入浴するときは、刺激の少ないせっけんをよく泡立て、優しく洗います。体を洗う浴用タオルは木綿素材か、ガーゼを利用するといいでしょう。体を洗い流すときは、皮膚を刺激しない、ぬるめのお湯がいいでしょう。同様に、浴槽に漬かるときも、38~39℃の温度が適しています。入浴後は、体を優しくふいてから、保湿剤を塗ります。保湿剤は入浴後だけでなく、皮膚が乾燥してきたら、そのつど、塗るようにしてください。
衣類に関しては、肌への刺激が少ない天然素材のものを着用するようにします。最近は化学繊維でも肌触りや吸湿性に優れた下着や衣服が市販されるようになってきました。自分の肌の状態を見ながら、衣類を選ぶようにしてください。
寝具は、アトピーの患者さんにとって、非常に重要です。まくらや布団にダニの死骸やフンが付着していると、症状を悪化させてしまいます。防ダニ加工の布団やシーツ、まくらを使うのはもちろん、まめに干したり、クリーニングに出したりしてください。
食生活に関しては、アナフィラキシー(短時間で全身に重篤なアレルギー症状が出ること)を起こすアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)を持っている場合は別として、過度に神経質になる必要はありません。むしろ特定の食品をさけることで、免疫機能の正常化を遠ざけてしまう可能性があります。アレルギーを引き起こしかねない苦手な食べ物があっても、100%敬遠するのではなく、少しずつ食べて、体に慣れさせることが大事です。危険な症状をさけるために、慎重に少しずつ食べるようにしてください。
生活の改善に加え、アトピーの標準治療を受けることをおすすめします。アトピーの標準治療は前述したスキンケアと、ステロイド外用薬による薬物療法、症状を悪化させる因子の排除が基本です。外用薬に関しては副作用を心配する患者さんも多いのですが、副作用のリスクはとても少なく、多くの方々が何の問題もなく健康な肌を取り戻しています。標準治療を受けながら、日常生活を見直すことが、アトピーを改善させる近道なのです。
江藤隆史先生(東京逓信病院副院長兼皮膚科部長)