薄毛や抜け毛が気になるあなた!ストレス減らしてリラックス、"60点主義"でいきましょう

uF4RCU2Goj8mLSU1484096932.jpg

私が勤める東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの皮膚科には、アトピー性皮膚炎などの皮膚病をはじめ、薄毛や抜け毛に悩む女性が来院されます。原因はさまざまですが、薄毛や抜け毛は心の問題、特にストレスと密接な関係があります。私が重視しているのが「サイコダーマトロジー(精神皮膚科学)」という考え方です。精神皮膚科学とは、患者さんの抱えるストレスなど、心理的な要因と皮膚の状態との関係を考えながら治療を行っていくものです。

誰でも一度は、恥ずかしくて赤面したり、恐怖で顔が青ざめたりした経験があるでしょう。私たちの心の動きは、皮膚の変化と密接に関係しているのです。薄毛や抜け毛は、外見の問題に直結するだけに、特に女性にとっては男性に比べて大きな悩みとなります。これらの悩みは個人差があり、患者さんによっては生活の質(QOL)が大きく損なわれることがあります。女性が抱える髪の悩みの中に、「びまん性脱毛症」という、髪全体が薄くなる脱毛症があります。びまん性脱毛症の中で多いのが女性型脱毛症です。原因は、加齢変化によって髪を作り出す活動が低下してしまうためだと考えられています。

また、びまん性脱毛症のほかに、年齢、性別を問わず発症する「円形脱毛症」の悩みは女性のほうが深刻になりがちです。円形脱毛症は、以前から発症にストレスが関係するといわれてきました。実際に発症前の数ヵ月間で認められたストレスとして挙げられるのは、職場の人間関係や仕事の負担、家庭環境の変化、親世代の病気や介護などです。また、これらのストレス要因がいくつも重なることもあり、その場合には患者さんの心理的負担はますます大きくなってしまいます。ストレスが円形脱毛症に関係するしくみはまだよくわかっていません。しかし、ストレスは免疫の働きや自律神経系に影響を及ぼすため、円形脱毛症の発症や悪化の原因となる可能性があると考えられます。

2004~2010年に、私たちの女性外来皮膚科を受診した1458人の女性を分析したところ、最も多い世代は40代後半で、次に多いのが30代前半でした。40代後半の世代は、自分自身の健康や若さを失う不安を抱えつつ、家庭では子どもの受験などに直面し、職場では責任あるポジションを任されたり、親の介護に奮闘したりしている人もいます。どれをとっても心と体に大きなストレスがかかることは容易に想像できます。

大きなストレスがかかる中高年の女性は、加齢などの原因による薄毛・抜け毛の悩みを抱える人が少なくありません。この世代に特有の心と体のストレスは、薄毛や抜け毛の悪化因子にもなりえます。また、薄毛・抜け毛そのものによるストレスとあいまって悪循環に陥ってしまうことも珍しくありません。

中高年の世代では、唯一のストレス解消法が、飲酒や食べることという方も見受けられます。そういった方には、髪のトラブルをきっかけにあらためてバランスのよい食事、十分な睡眠、運動といった規則正しい生活習慣の重要さを説明しています。

ストレスをためない方法としては"60点主義" という考え方をお伝えしています。60点主義は、完璧主義とは逆に、すべてをやろうとしない、失敗しても大丈夫、こだわりすぎないといったことを意識する考え方です。結果的に「いまの自分はよくできている」と思うことができれば60点主義の成功です。心に負担をかけない考え方を取り入れてストレスを軽減させることも、治療の手助けとなります。特に20~30代や中高年に多い対人関係のストレスについては、まわりに合わせすぎたり、逆に相手をコントロールしたりしようとすると、ストレス状態になりやすくなります。対処のコツとして、「まわりに振り回されない」「相手をコントロールしない」「相手に過剰な期待をかけない」「自分で自分を評価してあげる」といった方法を提案しています。ストレスや悩み事が深刻化してしまう前に、信頼できる友人や家族など、周囲の人に相談を持ちかけて、サポートを得ることはとても大切です。皮膚のトラブルに関連することであれば、まずは適切に対処をすることが肝心ですので、専門家に相談することが大切です。

また、女性は髪が抜けるのを恐れるあまり、洗髪が不十分になっていたり、過度のマッサージを行っていたり、という場合もあります。正しい洗髪方法や頭皮のマッサージのしかたなどの指導も大切だと考えています。ボリューム感の出る髪型や、ウイッグの使用なども工夫しだいです。一人で悩む前に、私たちのような専門医を訪れ、ぜひ適切な診断を受けてほしいと願っています。

檜垣祐子先生(東京女子医科大学大学附属女性生涯健康センター副所長)

Back