ステロイド×脱ステロイド!アトピー改善、美肌再生への道について専門医に聞きました(2/2)
私は、40年前からアトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)の治療にステロイド外用剤(以下、ステロイドと略す)と保湿剤をほとんど使用しなくなりました。炎症を抑えるためにステロイドを塗ると、皮膚がステロイドなしでは正常に機能しない「ステロイド依存性皮膚症」になってしまうからです。また、その過程で保湿依存症が起こります。タクロリムス軟膏も同じような依存症を招き、皮膚本来の自然治癒力を失わせてしまいます。
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私が脱ステロイド・脱保湿治療を行うようになったきっかけは、「乾癬」と診断されて別の病院から紹介されて来た小児患者のAくん(当時2歳・男性)との出会いでした。鱗のように体中の皮膚がボロボロにむけていたAくんは、毎日大量のステロイドを塗っていたため、副作用のせいで成長障害も起こっていました。しかしその後、ステロイドの使用をやめると、皮膚の状態は改善しました。保湿剤の使用もやめると炎症がまったく起こらなくなり、成長障害も治まりました。
その後、治りが悪いとして私のもとを訪れる小児アトピーの患者さんに脱ステロイド・脱保湿治療を行ったところ、Aくんのケースと同様に好結果が得られたのです。私は、治りにくいアトピーやいくつかの皮膚疾患に脱ステロイド・脱保湿治療は有効であると確信を抱きました。
私が皮膚科部長を務める阪南中央病院には、年間600〜700名のアトピー患者さんが脱ステロイド・脱保湿治療を求めて来院され、3割以上が重症です。重症の場合でも、2ヵ月間の入院治療をしっかりと受ければ、社会復帰できるまでに改善します。これまでの治療の成功率は97.5%です。
脱ステロイド・脱保湿治療には、身体的・精神的な苦痛を伴うため、患者さん自身の強い意志と覚悟が必要です。治療を始めると、薬を塗っていた部分だけでなく全身に炎症が一時的に広がり、真っ赤に腫れ上がることは少なくありません。個人差はありますが、治療を始めてから1週間後あたりが最もつらい時期です。
最もひどかった離脱症状の例では、全身からしみ出た滲出液(炎症で障害を受けた血管からもれ出た血液成分)がベッドにしみ込んで床にしたたり落ちるほどでした。治療は患者さんの負担を少しでも軽くして進める必要があります。ステロイドを突然やめるのではなく、量や強さ(ランク)を徐々に減らしたり、お風呂上がりにすぐ保湿剤を塗るのではなく、塗るタイミングを少しずつ遅らせるように伝えています。
脱ステロイド・脱保湿治療の原則は「ステロイド外用剤やそのほかのステロイドの使用をやめること」「保湿剤の使用をやめること」の2つです。2つの原則を徹底しながら、皮膚を外気にふれさせて、皮膚本来の自然な状態を取り戻していきます。
次に、脱ステロイド・脱保湿治療の効果を高める4つのポイントをご紹介しましょう
①水分制限
最も重要なのは、水分の摂取制限です。水分を過剰に摂取すると、皮膚細胞間の水分量も増え、少しかいただけで皮膚がダメージを受けてしまいます。また、すでに傷がある状態で水分を過剰摂取すると、血液量も増えて出血しやすくなります。滲出液が出ているときは体内のたんぱく質が失われるため、傷の修復に必要なたんぱく質が不足してしまいます。食事以外の水分摂取量は、季節により1日1000〜1500㍉㍑にとどめましょう。
②入浴制限
入浴すると、必要以上に皮脂がなくなり、かゆみが増加してしまいます。入浴回数の目安は、1週間に1〜2度程度で十分です。黄色ブドウ球菌をはじめとする細菌感染を合併するおそれがあるため、医師が必要と判断する場合は入浴回数を増やしましょう。
③乾燥
皮膚を乾燥状態に慣れさせることが大切です。布団に一日中潜り込んでいたり、厚着をしたりすると、皮膚が外気にふれず、保湿された状態になってしまいます。皮膚が保湿された状態では、外用剤を塗っているのも同然です。
④適度な運動
適度な運動で代謝が上がれば、自然治癒力も向上します。最初は軽く歩く程度でかまいません。慣れてきたら、徐々に歩くペースを上げ、最終的には毎日30分程度のジョギングをするのがベストです。
脱ステロイド・脱保湿治療では、患者さんの状態をしっかりと見極める必要があります。医師と綿密にコミュニケーションを取り、場合によっては入院治療を受けることも必要です。決して単独では行わずに、脱ステロイド治療を行う医師に相談するようにしてください。
脱ステロイド・脱保湿治療を進めていくと離脱症状はしだいに治まり、ステロイドで抑えていたアトピーの症状が出てきますが、多くの場合は自然に治癒してきます。離脱症状後にアトピーの症状がまったく出ない場合、ステロイドの副作用だけで皮膚がボロボロになっていたと考えられます。
私が行う脱ステロイド・脱保湿治療で、アトピーの症状が少し残る方がいます。残存する症状を、ステロイドのような副作用の強い薬ではなく、何か別の方法で救うことがアトピー治療における今後の課題だと痛感しています。
佐藤健二先生(阪南中央病院皮膚科部長)