イグ・ノーベル賞を受賞した医師に聞いた!アトピー改善の決め手はキスらしい
2015年9月、「イグ・ノーベル賞」医学賞を受賞しました。私は、まったく予想もしていなかったので、とても驚きました。私が受賞したのは、「キスによるアレルギー反応の減弱」というテーマです。アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと省略)をはじめとするアレルギー性疾患に対して、感情や愛情などの精神面がどのように影響するかを調査研究したものの一つです。アトピーの患者さん30人(男14人:女16人、22~38歳、平均28歳)と、アレルギー性鼻炎の患者さん30人(男14人:女16人、21~35歳、平均28歳)にパートナーとともに協力していただきました。それぞれ個室に入ってパートナーと2人きりになって、音楽を聴きながら30分間抱擁してもらいました。2週間後に再度集め、30分間自由にキスをしてもらい、それぞれの前後でアレルギー反応を調べたのです。なお、15組ずつに分けて、抱擁とキスを一方の組に先にやってもらい、統計上の差異が出ないようにしました。
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音楽は『美女と野獣』『星に願いを』『慕情』『ムーンリバー』など全部で7曲。ムードのある雰囲気を作り出す音楽をBGMとして流しました。アレルギー反応は、腕の皮膚の表面を専用の針で突いてアレルゲンを付着させるブリックテストで調べました。アレルギーがあると、じんましんのようにひふが盛り上がり、皮膚の表面が赤くなります。その結果、アトピーとアレルギー性鼻炎の人は、抱擁では変化がありませんでした。一方、キスをした前後では全員のアレルギー反応が減弱していました。自由に休みながらキスしたほうがリラックスできて愛情を表現できるため、効果があったのだと考えています。
私は、「笑いによるアレルギー反応の減弱」「音楽によるアレルギー反応の減弱」についても調査しています。いずれの調査でアレルギー反応に対していい結果が出ています。「笑い」の調査では、アトピーの患者さん26人(男11人:女15人、21~58歳、平均31歳)にチャップリン主演の喜劇映画『モダン・タイムス』を見てもらいました。映画を見る前後でアレルギー反応を調べると、映画を見た後にアレルギー反応が大きく減弱していたことがわかりました。
「音楽」の調査では、アトピーの患者さん25人(男12人:女13人、21歳~45歳、平均32歳)にベートーベンの『エリーゼのために』や交響曲の『田園』『運命』の一部を聴いてもらいました。また、別の25人(男12人:女13人、20歳~43歳、平均31歳)にモーツァルトの『ピアノ協奏曲第21番』や『ピアノソナタ第11番』の1部などを聴いてもらいました。ベートーベンの曲ではアレルギー反応に影響はなかったのですが、モーツァルトの曲ではアレルギー反応が明らかに減弱していたのです。モーツァルトの曲は、脳液をα波にするためだと考えています。
笑いも音楽もリラックスできて、感情が豊かになったときにアレルギー反応に対して効果を発揮します。キスと同様、リラックスや感情以上の強い作用があると想像できますが、くわしいしくみはわかっていません。これらの結果はアレルギー反応が減弱するだけで、症状が改善するかは検討していません。しかし、愛情豊かな感情やリラックスする余裕を持つことは、アトピーをはじめとするアレルギー性疾患のアレルギー反応の軽減が期待できると考えています。
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当院では、ステロイド外用薬や免疫調整外用薬を使わず、保湿剤依存症にならないように保湿剤も最小限の使用で、治療を行っています。アトピーは多くの原因で起こる病気です。少なくともアレルギー・ストレス・細菌感染症の要因が大きな原因であると考えています。私は、患者さん一人ひとりの症状をていねいに診て、要因の一つひとつに対処しています。患者さんの症状に合わせてアレルギーには抗アレルギー薬、細菌感染症には抗菌剤や抗ウイルス剤を処方しています。ストレスを抱える患者さんには、悩みや質問にていねいに答えることを心がけています。
通院している患者さんのうち、高校生以上の大人のアトピーが6割以上を占めています。患者さんが、ステロイド外用薬などを使わずに済むよう、リバウンド(皮膚の一時的な悪化)の除去・改善に力を入れています。人間が本来持っている自然治癒力を向上させて、アトピーが徐々にでもよくなるよう、患者さんに寄り添って治療効果を上げたいと思っています。愛情や感情の豊かな生活には、アトピーの症状を軽減させることが十分に期待できます。そのような生活をぜひとも送って、症状の改善に役立ててほしいと願っています。
木俣肇先生(木俣肇クリニック院長)