廃棄処分されていた‶レモンの果皮と花"に強い抗酸化作用が見つかりました!
広島県は中国山地と四国山地の間に位置し、雪や雨の影響を受けにくく晴天の日が多いのが特徴です。年間の日照時間は2000時間を超え、非常に温暖な気候です。そのため、様々な農作物が収穫されることで知られています。中でも生産量国内第1位を占める果物がレモンです。
レモンはミカンやオレンジなどと同じ柑橘類の仲間です。レモンが日本に伝わったのは明治時代のこと。広島県呉市で初めて栽培されたといわれています。レモンは地中海沿岸で収穫されていますが、広島県も地中海地方に似た温暖な気候のため、レモンの栽培に適した土地なのです。
私は、ミカンやレモンをバイオエタノール(植物資源を発酵させて作る燃料)として活用するための研究を行っています。レモンの場合、ジュースなどの製造後、レモンの果皮のほとんどは廃棄処分されています。レモンにはビタミンCやクエン酸、ポリフェノールといった栄養成分が豊富に含まれています。廃棄されるレモンの果皮にも健康効果があると思い、有効活用できないかと考えたのです。
私がかつて学生だったころ、レモンの果皮を使った研究に携わったことがあります。当時の研究では、高血圧症のマウスにレモンの果皮のエキスを与えたところ、血圧が下がり、低下した状態を維持することがわかったのです。さらに、近年の私たちの研究で、島根県産のレモンにさまざまな機能性があることが明らかになってきました。
私たちは、広島県で栽培されたレモンを圧搾した後の廃棄物の果皮を熱風乾燥し、粉末の状態にしました。そして、粉末化したレモンをマウスのエサに混ぜて与える実験を行ったのです。その結果、高い抗酸化作用があることが確認されました。レモンの果皮にはポリフェノールの1つであるフラボノイドが大量に含まれています。フラボノイドは抗酸化作用が強いことで知られています。
この実験結果を受け、レモンの果皮をさらに多く配合したエサを作り、今度はイヌに与える実験を行いました。すると、便と尿の消臭効果のあることが認められたのです。
これらの結果から、現在、レモンには、イヌやネコが嫌うにおい成分が含まれていますが、果皮を乾燥させ微粉末化することで除去できることがわかりました。微粉末化することに成功したおかげで、さまざまな食品に応用できるようになったのです。食品にするまで、3年を費やしました。
消臭効果があるため、私はペットのエサにピッタリだと考えています。また、最近はペットに肥満が増えていると聞いています。人間と同じように、ペットも肥満になると高血圧症の危険が高まり、心臓への負担大きくなります。レモンの果皮には高血圧症を改善させる働きがあるため、ペットにおすすめです。現在はペットフードだけでなく、人間の健康維持・増進に役立つ機能性食品の開発も進められています。
レモンは果皮や果実のほか、花も有効活用できるのではないかと、私は考えました。レモンが栽培される過程で余分な花は摘み取られます。これまで、摘み取られたレモンの花は廃棄処分されていました。私がレモンの花に着目したのは、レモンを栽培している農家の奥さんが焼酎にレモンの花を入れて化粧品にしたり、お風呂に入れたりしていると聞いたからでした。
私は水蒸気蒸留という方法でレモンの花から成分を抽出しました。その結果、チロシナーゼ活性を抑える働きがあることがわかったのです。チロシナーゼは、メラニン色素を作り出す酸化酵素のこと。チロシナーゼが活性化すると黒色メラニンが発生し、肌にシミができるようになります。
チロシナーゼ抑制作用のあるレモンの花のエキスをとることで、美白効果が期待できるのです。さらに、果皮と同様に花にも高い抗酸化作用があることが確認されました。
現在、レモンの花のエキスは化粧品に応用され、広く使われています。
このように、廃棄処分されていたレモンの果皮や摘み取られたレモンの花を有効活用できるようになりました。天然で作られたものに捨てるところはないと、私は思っています。これからも、廃棄処分されている天然素材の研究を進めていきます。
野村正人先生(近畿大学工学部長)