腎臓の機能の低下には赤血球が深く関わっているかもしれません!
慢性腎臓病が進行すると、最終的には腎不全に至ります。末期の腎不全では、週3回程度の人口透析(機器を使って血液をろ過する治療法)を生涯続けるか、腎臓移植をしなければ、生命を維持することはできません。
人工透析による治療は、患者さんの生活の質(QOL)を大きく損なわせます。患者さん本人はもちろん、家族にとっても大きな負担になるからです。だからこそ、慢性腎臓病と診断されたら、腎臓の機能低下を少しでも防ぐことが大切です。
人工透析は機器によって血液を浄化します。透析を受けていない慢性腎臓病の患者さんは、減塩や低たんぱくといった腎臓病の食事療法に加えて、みずからの力で血液を浄化する生活習慣を心がけましょう。
一般的に、高い血圧は血管に負担をかけ、血管の老化(動脈硬化)を加速させます。毛細血管の塊ともいえる腎臓の糸球体も例外ではありません。高血圧が続くと糸球体が劣化し、主要な役割であるろ過機能が大きく低下していきます。これが慢性腎臓病の始まりです。
一方で、慢性腎臓病そのものが高血圧の引き金にもなります。その仕組みの1つとして、腎臓が持つ造血機能の働きから解説します。
腎臓が担っている働きは、血液のろ過機能だけではありません。腎臓は私たちの体にとって欠かせない多くのホルモンを分泌する臓器でもあります。腎臓が分泌するホルモンの1つに「エリスロポエチン」があります。造血ホルモンとも呼ばれるエリスロポエチンは、骨髄を刺激することで赤血球を作り出す働きがあります。血液中に含まれる血球(血液細胞)には赤血球のほか、白血球や血小板があります。血球の大半(約95%)を占める赤血球はエリスロポエチンの働きによって作られているのです。
慢性腎臓病に伴って腎機能が低下すると、腎臓から分泌されるエリスロポエチンの量も減少していきます。その結果、赤血球を作り出す骨髄の造血能力も低下します。
赤血球は数十兆個といわれる全身の細胞に酸素を送る役割を果しています。細胞は酸素をエネルギーにして活動をしています。腎臓はもちろん、全身の細胞を正しく活動させるには、酸素の存在が欠かせません。酸素と結びつく赤血球の数が減少することで、細胞に十分な酸素が行き渡らなくなってしまうのです。慢性腎臓病の患者さんの中に貧血に悩まされる人が多いのは、赤血球の減少によって脳の細胞が酸素不足に陥っているからと考えられます。
赤血球の不足を察知した体は、高い圧をかけて全身に血液を送り届けようとします。その結果、高血圧がさらに加速してしまうのです。
以上のように、高血圧は慢性腎臓病の原因になります。慢性腎臓病と高血圧は、密接な相関関係にあるのです。
エリスロポエチンの分泌量が減少して造血能力が低下すると、赤血球の数が減少するだけでなく、赤血球の健康状態も劣化します。
赤血球は「変形態」と呼ばれる能力を備えています。赤血球は毛細血管の直径よりも大きいため、みずからの形を変えることで毛細血管に入り込み、細胞に酸素を届けています。
ところが、劣化した赤血球は変形態が低下します。みずからの大きさよりも細い毛細血管の塊ともいえる腎臓は赤血球の劣化によって酸素の供給が途絶え、腎機能の低下に拍車がかかるのです。
動脈硬化は高血圧の主要な原因です。高血圧が慢性腎臓病の危険因子であり、初・中期の慢性腎臓病を発症させる危険因子の筆頭は高血圧であることが、世界中から報告されています。慢性腎臓病の患者さんは、心不全や心筋梗塞といった心血管系の病気、さらには脳卒中など、動脈硬化に伴う脳血管障害にも注意しなくてはいけません。
慢性腎臓病の発症と悪化を防ぐには、クレアチニン値や尿素窒素といった腎機能を示す数値に気を配るだけでなく、日常的に血圧をチェックすることが大切です。高血圧を指摘されたら、医師と相談して原因を探り、治療に努めてください。動脈硬化の指標となる中性脂肪やコレステロールの数値、肥満度などにも注意しましょう。
佐藤博亮先生(福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座准教授)