耳鳴り・難聴の原因に新発見!動脈硬化がかかわっているかもしれません

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日本では現在、耳鳴りや難聴、めまいに悩まされている人の数は、2000万人以上に上ると推定されています。耳鳴りや難聴、めまいは併発することが多く、最近では若い人にも増えているというデータがあります。

2004年の国立長寿医療センター(当時)による発表では、約40種類の難聴の原因と考えられる事項統計学的に調査・分析した結果、難聴と相関関係にあったのは2つだけでした。その一つは騒音です。

実際に85デシベル(デシベルは音の大きさや強さを表す単位)以上の騒音のある職場で働く人は、耳鳴りや難聴が多くみられました。

近年、新たに問題になっているのが電車の騒音やオーディオのヘッドホンステレオの大音量です。地下鉄の駅では90デシベル以上になる駅があります。85デシベルの騒音を毎日8時間聞いていると、5年後には騒音性難聴になると考えられています。地下鉄の駅の構内や電車内は、耳にとって騒音にさらされる悪い環境といわざるをえません。

携帯型オーディオのヘッドホンステレオを使って、電車の騒音などよりもさらに大音量で音楽を再生すれば、耳が受けるダメージは想像以上のものとなります。耳鳴りや難聴が生じても何ら不思議ではないのです。

騒音に加え、耳鳴りや難聴を招くもう一つの原因が動脈硬化(血管の老化)です。国立長寿医療センターの発表を受けて私が調べたところ、「頸動脈内膜中膜肥厚(IMT)」という病気を患っている患者さんの多くが耳鳴りや難聴に悩んでいることがわかりました。

IMTとは、首の頸動脈(頭部に血液を運ぶ血管)の最も内側にある内膜やその外側にある中膜と呼ばれる層が厚くなって、動脈硬化を進行させる病気です。これまでの研究結果から、糖尿病や高血圧、脂質異常症(血液中のコレステロールや中性脂肪が増加した状態)などの病気がIMTに関係していることがわかっています。

私はいまから10年ほど前、70代の男性患者さんのAさんの診察を通じて、動脈硬化と耳鳴り・難聴の関係に気づきました。Aさんは肥満体で、周波数の高い音が聞こえず、ひどい耳鳴りに悩んでいました。何か所もの著名な耳鼻咽喉科を受診したものの、どの病院でも「年のせい」といわれてきたそうです。

私は、Aさんの体形を見て、精密検査を受けることをすすめました。すると、血液検査の結果、脂質異常症と判明しました。さらに、超音波を使って血管の内壁についている脂肪量を計算する検査を行ったところ、左頸動脈がプラーク(余分な脂肪が内膜の一部にたまってできた盛り上がり)によって、ほとんどつまっていることがわかったのです。

頸動脈がつまっているということは、脳だけではなく、全身の血管の動脈硬化が進んでいる危険性の高いことが示唆されます。Aさんには病院の循環器科を紹介し、循環器科で専門的な治療を受けてもらった結果、左頸動脈の狭窄部分が改善して耳鳴りも解消しました。

Aさんの症例以来、私は42人(男性22人、女性20人・平均年齢64.5歳)の耳鳴り・難聴の患者さんの検査を行いました。その結果、37人(約90%)にIMTを確認しています。患者さんの大半は、頸動脈の内膜中膜が正常な厚みより0.5~0.7㎜も厚くなっていたのです。

耳鳴りや難聴の原因になっている動脈硬化は、血管内の炎症と深くかかわっており、原因のほとんどが糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病です。

動脈硬化が進んだ人でも、食生活を見直したり、適度な運動を心がけたりすれば、血管に若さを取り戻すことは可能です。運動によって動脈硬化が改善される理由は、血流量の増加にあります。運動によって血流量が増加すると血管の内皮がほぐされ柔らかくなるのです。

私は、動脈硬化を改善するための運動としてこまめに水分を補給しながらのウォーキングをおすすめしています。実際、多くの患者さんが、脂肪や糖分の少ない食事に変え、1日60分ほどのウォーキングを半年続けると、頸動脈の内膜や中膜が0.1㎜以上減ったという結果が出ています。生活習慣の見直しと適度な運動によって動脈硬化が改善し、一年足らずで耳鳴りや難聴が改善している人は数多くいます。

早期治療が耳の状態を大きく左右することもありますので、少しでも難聴の疑いがある場合は、耳鼻咽頭科での検査を受けるようにしましょう。

中川雅文先生(国際医療福祉大学耳鼻咽喉科教授)

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