季節の変わり目に要注意!あなたには"天気痛"の兆候はありませんか
梅雨の時期や季節の変わり目になると、体調が悪くなることはないでしょうか。雨が降った日には耳鳴りやめまいが生じたり、関節痛や頭痛などの慢性痛が悪化したりするという方は、天気の変化が原因のおそれがあります。天気の変化によって起こるさまざまな症状のことを「天気痛」と呼んでいます。私は、天気の変化と病気の関係について、約20年にわたって研究してきました。天気の変化によって起こる代表的な症状は、関節痛や頭痛などの慢性痛、耳鳴りやめまい気分の落ち込みなどがあります。天気痛の症状がひどくなると、起き上がることが出来なくなる人もいるほどです。軽度な症状を含めると、日本国内で1000万人以上の方が天気痛に悩んでいると考えられます。関節痛などの慢性痛を訴える人の4人に1人は、天気によって痛みが変わると調査結果でも報告されています。
多くの方を悩ませる天気痛ですが、これまで深刻な問題としてとらえることはほとんどありませんでした。天気痛のせいで雨の日に学校や会社に行けなかったり、家事ができなくなったりしても「やる気が足りない」「怠けているだけ」と、気持ちの問題として考えられてしまうことが多かったからです。残念ながら、天気痛への理解は、まだまだ十分ではないのが現状です。
しかし、「雨が降ると古傷が痛む」「季節の変わり目にめまいが頻発する」「天気が悪い日は気分が落ち込む」など、天気と健康には何らかの関係があることは、多くの方が経験的に知っているのではないでしょうか。実際、アンケート調査でも、8割の人が天気と健康には何らかの関係があると回答しています。では、多くの方が感じている天気痛はどのようにして起こるのでしょうか。天気痛には「気圧」と「気温」の2つの要因があります。
ラットを使った実験で、気圧を下げて低気圧の状態にしたところ、血圧と心拍数が上昇することがわかりました。血圧と心拍数の上昇は、自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きを支配する神経)が刺激されて、交感神経(心身を活発にする神経)が活発化したことを示しています。
自律神経は外部環境の変化に対応しながら、交感神経と副交感神経(心身を休息させる神経)がバランスをとっています。ところが、気温や気圧の変化に対応しようと交感神経の働きが優位になると、古傷や慢性痛が起こる部位に分布する痛みの神経が興奮してしまいます。気温や気圧の変化による負荷を跳ね返そうと交感神経が活発になればなるほど、耳鳴りやめまい、頭痛などの天気痛が悪化するようになるのです。
さらに研究を進めたところ、気温の変化による天気痛は、肌が感じる刺激によって引き起こされるのに対し、気圧の変化による天気痛は、耳のいちばん奥にある内耳がセンサーとなって引き起こされることがわかりました。ラットによる実験の結果、内耳の機能を失わせたラットでは、気圧の変化に伴う通常の反応が起こらないことが判明したのです。内耳の内部は、外リンパ液と内リンパ液という2つのリンパ液で満たされています。私たちの体のバランスをとる平衡感覚は、内耳にあるリンパ液の働きによって保たれています。私は、外リンパ液と内リンパ液を隔てる膜迷路と呼ばれている部分が、気圧の変化を感じていると考えています。
内耳が敏感な人ほど天気痛は起こりやすく、低気圧が来ると内耳のリンオア液に変化が起こるようになります。このとき、体を動かしていないにもかかわらず、まるで体を動かしたり傾けたりしたかのような情報が脳に送られてしまいます。目から入ってくる情報とリンパ液が伝える情報が異なり、脳が混乱を起こしてしまうのです。これは、乗り物酔いが起こる仕組みに近いと思われます。乗り物酔いは、乗り物に乗っているときに目から入ってくる情報と内耳のリンパ液で感じる傾きに誤差が生まれることで、吐き気や頭痛が起こります。
内耳のリンパ液がかかわっている病気のメニエール病は、グルグルとした回転性のめまいや耳鳴り、難聴を引き起こす病気です。内耳の中の内リンパ液が過剰に増え、内耳が水ぶくれのように腫れた状態になることで発症します。実際、天気痛の患者さんの中には、メニエール病と同じような症状を訴える人も少なくありません。
特に注意していただきたいのが、梅雨の時期です。雨の日が続き、気圧の変動が起こるためです。また、梅雨を過ぎても9月ごろには台風が来ます。台風が接近すると気圧が急激に下がるため、非常につらい天気痛を起こすことも珍しくありません。台風のほかに、ゲリラ豪雨も気圧の変動が激しく、夏の間は天気痛の症状が悪化しやすい時期といえます。6~9月にかけては悪化が予想される天気痛への対策が重要です。
佐藤 純先生(愛知医科大学各院教授)