肥満・脂質異常・糖尿病などの合併症に注意!乾癬改善のカギを握る腸内フローラ

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乾癬は、皮膚の一部や全身などの広範囲に炎症が起こる病気です。治療が困難で再発をくり返し、慢性的な経過をたどるのが特徴です。日本国内の乾癬の推定患者数は約10万人といわれている一方で、40万人以上とするデータもあります。男女比は2対1で男性に多く、男性が30代、女性が10代と50代での発症しやすいと考えられています。

乾癬は「炎症性症」という皮膚の病気に分類されます。炎症を起こしている皮膚の表皮が赤く盛り上がって銀白色の垢になり、ポロポロとふけのようにはがれ落ちます。この現象は落屑と呼ばれ、健康な皮膚に比べて表皮が10倍以上の速さで作られるために起こります。

かゆみを伴う炎症と表皮の過剰な増殖は、白血球の仲間である炎症細胞(樹状細胞やTリンパ球、肥満細胞などの炎症を引き起こしたり悪化させたりする細胞)が活性化していることが原因です。炎症細胞の活性化に伴って体内に炎症物質が増えると、毛細血管が拡張して患部が赤くれ上がります。

炎症物質の中で乾癬の発症や悪化と深くかかわっているのが、IL17という炎症物質です。IL17は腫れや痛みなどの炎症を引き起こし、乾癬の皮疹(発疹の総称)に多いことがわかっています。

乾癬の皮疹でIL17が大量に作り出される過程には、免疫にかかわる白血球の一つであるTh17が関係しています。Th17は、表皮の増殖を引き起こすIL22も産生し、皮膚の炎症に加えて、表皮の過剰な新陳代謝を引き起こすのです。

乾癬の原因はいまだ解明されていません。しかし現在では、免疫の異常で起こる自己免疫説が主流になっています。Th17は、乾癬のほか、やクローン病などの消化管の炎症疾患、関節リウマチといった慢性の炎症疾患にも深くかかわっていると考えられています。

最近、慢性の炎症疾患とのかかわりで注目を集めているのが、腸内フローラです。人間の腸管内には、100~3000種類、100兆~1000兆個もの腸内細菌がすみついているといわれています。腸内細菌のかたまりを腸内細菌といい、花畑のように見えることから腸内フローラと呼ばれています。

腸管には体の免疫細胞の60~70%が集まっており、免疫器官として重要な役割を果たしています。乾癬の危険因子や合併症には、肥満や脂質異常、糖尿病などが挙げられますが、腸内フローラは、肥満・脂質異常・糖尿病・高血圧・動脈硬化・アレルギー・腸疾患・うつ・がんなど、さまざまな病気の発症に関係すると考えられているのです。

実際に国内外の研究結果からも、腸内細菌の中には肥満を促進する悪玉菌が存在することや、肥満に伴う大腸の炎症が糖尿病の発症につながること、血糖値をうまくコントロールできないと腸内の善玉菌が減少して悪玉菌が増加することなどが報告されています。さらに、2型糖尿病の患者さんでは腸内フローラが乱れ、腸内細菌が腸内から血流中にもれ出しやすいことも判明。2型糖尿病に伴う慢性的な炎症に関与している可能性が指摘されています。

私が所属する広島大学などの研究グループでは、乾癬の症状のあるマウスに乳酸菌を経口投与(口から与えること)する実験を行いました。実験にあたって、約200種類の乳酸菌の菌株を調査し、エンドウ豆から分離したロイコ菌という乳酸菌とその菌体外多糖(EPS)に免疫を活性化する働きがあることを突き止めました。菌体外多糖とは、乳酸菌が菌の体外に産生する成分のことで、腸内フローラを改善して免疫を活性化する働きがあると注目されています。

実験に先立って、ロイコ菌のEPSをマウスにすることで、乾癬の皮膚症状の悪化を抑制できることがわかっていました。そこで、ロイコ菌のEPSをマウスに経口投与する実験を行ったところ、ロイコ菌のEPSを経口投与したマウスでは、乾癬の皮膚症状の悪化を抑制できることが判明。さらに、炎症物質であるIL17の生産量が抑制されていることもわかったのです。

現在、ロイコ菌のEPSによって影響を受ける腸内細菌を特定する解析作業が進められています。今後の課題として、乾癬と腸内細菌の具体的なかかわりや、ロイコ菌のEPSを皮膚に塗布した場合と経口投与した場合の違い、ロイコ菌のEPSが腸内フローラを介して免疫バランスを改善させるしくみの究明などが挙げられます。引き続き、ロイコ菌のEPSをはじめとする乳酸菌や腸内フローラによる健康効果の研究に取り組み、機能性食品や化粧品などの実用化をめざしていきます。

鈴木 卓弥先生(広島大学大学院生物圏化学研究科教授)

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