筋力とともに運動機能の低下を引き起こす第3の脂肪"異所性脂肪"に要注意

_PJAHOGm6DE1XGu1487055995.jpg

寝たきりの原因の一つとして注目されているサルコペニア。加齢に伴って筋力の低下や筋肉量の減少が見られる状態を意味する言葉です。サルコペニアやサルコペニアが引き起こす運動機能の低下には、筋肉にたまった霜降り状の脂肪が関係していることがわかってきました。脂肪は通常、皮下脂肪・内臓脂肪として蓄えられます。筋肉のように本来たまりにくい臓器に蓄積された脂肪は、第3の脂肪"異所性脂肪"と呼ばれています。これまでの研究で、筋肉に脂肪が増えるとインスリン抵抗性によって血糖値が高くなり、糖尿病になる危険性が高くなることが報告されていました。

今回、名古屋大学と早稲田大学では行われた筋肉脂肪に関する試験をご紹介しましょう。高齢者の男女64名を対象に、超音波断層装置という医療用の器機を用いて太もも内部の画像を撮影し、筋肉脂肪の度合いを数値化するという内容です。試験では同時に、筋肉や皮下脂肪の厚みも計測。さらに、上体起こし、床立上がり、椅子座り立ち、5m最大速度歩行、6分間歩行距離といった運動機能が測定されたほか、新体組成計を用いて全身の体脂肪量、体脂肪率、筋肉量、筋肉率も推定されました。

その結果、筋内脂肪の指標に男女差はありませんでした。一方、超音波断層装置から求めた筋肉の厚さと皮下脂肪の厚さについては男性では有意に筋肉が厚く、女性では有意に皮下脂肪が厚いという結果が得られました。有意差とは、統計的に意味がある違いのことを指します。簡単にいうと、高齢者の太ももを比較すると、男性では筋肉量が多く、女性は皮下脂肪量が多いことがわかったのです。全身の身体組成でも、同様の結果が得られています。運動機能については、6分間歩行距離以外の種目で男性が女性より有意に優れていることがわかりました。

筋内脂肪と筋肉、皮下脂肪の厚さとの関係性について検討したところ、男性と女性ともに筋内脂肪の指標と筋肉の厚さとの間には負の有意な相関関係が認められました。筋肉に脂肪が多ければ多いほど、筋肉量が少なくなることを意味します。つまり、筋内脂肪の多い高齢者ほど、サルコペニアに陥る危険度が増すことがわかったのです。一方で、筋内脂肪と皮下脂肪では、男女で結果が異なる性差が確認されています。男性では有意な相関関係がなかったのに対し、女性では有意な相関関係が認められたのです。脂肪が体のどこの組織に蓄積していくかは、男女で異なることを示唆しています。

では、筋肉脂肪は、どのような因子と最も密に関係しているのでしょうか。今回の試験の結果、男性では「太ももの筋肉の厚さ」「椅子座り立ち測定」「年齢」、女性では「太ももの筋肉の厚さ」「椅子座り立ち測定」が筋内脂肪を予測できる指標になることがわかりました。男性と女性を合わせて同じ解析を行ったところ、「椅子座り立ち測定」「全身の筋肉量」「年齢」が筋内脂肪を予測できる因子として選択されました。

筋肉内に蓄積する筋内脂肪は、サルコペニアと密接に関係するとともに運動機能の低下にも関係しています。定期的な運動は、加齢に伴って生じる筋肉量と運動機能低下を軽減するのに役立ち、筋内脂肪蓄積の予防にもなります。ただ、高齢者については、筋肉の量だけでなく、脂肪も含めた筋肉の質にも注意していく必要があるといえるでしょう。

高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する(名古屋大学プレスリリース)

Back