正常眼圧でも油断は禁物!眼圧が上がりやすい冬は失明に繋がる緑内障に要注意

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わが国の中途失明原因の第1位は「緑内障」です。緑内障は、「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に降下させることにより視神経障害を改善もしくは制御しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義されています(日本緑内障学会)。わかりやすくいうと、目に入った情報を脳に伝える神経が死滅していく病気です。そのため視野がしだいに狭くなって、やがては失明に至ってしまうのです。

日本緑内障学会が岐阜県多治見市の市民を対象に行った「多治見スタディ」と呼ばれる調査によると、40代以上の17人に1人は緑内障で、患者数は年齢を重ねるごとに増える傾向があるとわかっています。高齢化により、日本では今後、患者さんの数がますます増えていくことでしょう。

緑内障には、「緑内障」と「開放隅角緑内障」の2つのタイプがあります。「閉塞隅角緑内障」では、一般的に急性緑内障発作と呼ばれる頭痛、吐きけ、急激な視力の低下といった症状が起こります。隅角がつまり、眼圧が高くなるのが原因です。60歳以上の女性に多く、若いころに目のよかった人がなりやすい傾向があります。

一方の開放隅角緑内障は40代くらいから増えはじめ、症状は徐々に進行します。強度近視の人ほどなりやすいことがわかっています。自覚症状がほとんどないため、視野が狭くなったと気づいたときには、視神経の70%前後が死滅している場合がほとんどです。日本では、圧倒的に開放隅角緑内障が多いと明らかになっています。以前は、緑内障といえば眼圧が高いために起こる病気だと考えられてきましたが、最近になって、開放隅角緑内障のように眼圧が上がらない「正常眼圧緑内障」の患者さんのほうが多いとわかってきたのです。

多治見スタディでは、緑内障と診断された人の9割以上の人が未治療でした。つまり、緑内障の患者さんの多くが、自分が緑内障であると知らずに生活していることになります。その数は、国内で250万人に上るといわれているほどです。

緑内障の検査にはさまざまな方法がありますが、一般的には眼底検査や眼圧検査などが有効です。眼圧の基準値は10〜21㍉水銀柱ですが、先ほど述べたように眼圧が正常でも緑内障になる場合があります。眼圧には日内変動があり、測る時間帯によっても結果は異なるので、眼科医にくわしく診察してもらうことをおすすめします。

緑内障の治療法についてですが、正常眼圧緑内障でも眼圧を下げるのが基本となります。眼圧について補足すると、冬は特に上がりやすいことがわかっています。季節で眼圧が変動する理由は解明されていませんが、自律神経が深くかかわっているのではないかと考えられています。自律神経には体を緊張させる交感神経と、リラックスさせる副交感神経があります。このバランスによって眼圧が変化するのではないかという説です。気温の低い冬は、寒さをしのごうとするために交感神経の働きが強くなって血圧が上昇します。同様に、眼圧が上昇する可能性が指摘されているのです。

一方で、緑内障の患者さんには低血圧や冷え症の人が多いこともわかっています。こうした患者さんでは、眼圧が十分に下がっても緑内障が悪化する例が頻繁に見られます。理由として、網膜に酸素と栄養を届けるのに必要な「眼灌流圧」の低下が関係しているのではないかと考えられています。眼灌流圧とは、眼内への血流を促す「ポンプ」の力で、平均血圧と眼圧との差から推測できます。平均血圧と眼圧との差が小さいほど、眼灌流圧は弱くなります。平均血圧は最小血圧で大きく変わり、最小血圧が低いと眼灌流圧も弱まります。眼灌流圧が弱まれば、網膜の血のめぐりは悪化。その結果、視神経が酸素や栄養不足になって死滅し、緑内障が進行していくのです。

実際、秋田大学の調査では、「緑内障の患者さんには、最小血圧が58㍉以下の人が多かった」と報告されています。ただし、血圧が高いと動脈硬化で網膜が傷んでしまいます。緑内障の発症予防や悪化防止には、血圧が基準値であることが望ましいといえるでしょう。

病気のしくみが解明されていなかった昔は、「緑内障=失明」と思われていましたが、現在では診断も治療方法も格段に進歩しています。まずは眼科の定期的な受診を習慣にして、早期発見・早期治療に努めることが大切です。なお、緑内障の患者さんが糖尿病を併発すると、視神経の死滅が速まることもわかっています。また、糖尿病は緑内障の危険因子にもなります。検眼や血圧管理だけではなく、血糖値をきちんと管理することも忘れてはなりません。

松本拓也先生(松本眼科院長)

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