足ゆらマシンで貧乏ゆすりを簡単に!股関節の激痛が治まり軟骨の再生例も確認

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貧乏ゆすり(ジグリング)をどれくらいの期間行えば、股関節の軟骨が再生するのでしょうか。まだ研究段階ではありますが、一般的には6ヵ月〜数年の継続で、効果が現れることが多いようです。よくなった患者さんからは「クセになるまで行った」という声も寄せられています。ただし、長時間にわたって意識的に貧乏ゆすりをするのは、想像以上に容易なことではありません。「貧乏ゆすりがうまくできない」「後日、筋肉痛が出た」などの理由から、長続きしないという問題もあります。そこで、柳川リハビリテーション病院では、2013年から、足を乗せるだけで自動的に揺らしてくれる貧乏ゆすり器を導入しています。足ゆらマシンとでも呼びましょう。

✔前の記事「股関節の痛みが改善!"貧乏ゆすり"で人工関節の手術を回避できるかもしれません」

従来の貧乏ゆすりでは、キアリ手術という温存手術の術後、股関節のすき間(関節)が開くまでに一年半を要していたのが、足ゆらマシンを導入してから、6ヵ月前後に短縮される例が続出しています。一方、保存療法として足ゆらマシンを使用する場合、1日2時間使用すれば、多くのケースで数ヵ月〜数年の継続で関節裂隙の拡大がレントゲン写真で確認できるようになります。痛みなどの症状ならば、2〜3ヵ月で消失した例が数多く見られます。

足ゆらマシンによって症状が改善した変形性股関節症の患者さんをご紹介しましょう。Cさん(65歳・女性)は、軽度の臼蓋形成不全があり、二十年前にほかの病院で右股関節が股関節症と診断されました。臼蓋形成不全は、太ももの骨(大腿骨頭)の受け皿となる、おわん状の骨盤の骨(臼蓋)が浅かったり小さかったりする状態のことです。Cさんは、人工関節に置き換える手術をすすめられましたが、40代と若かったこともあり、どうしても手術を受けたくなかったといいます。その後も人工関節置換術以外の治療法を求め、何ヵ所もの整形外科を受診したそうです。しかし、どの整形外科でも人工関節をすすめられるばかりで、いとも簡単に手術をすすめる医師の態度に不信感を抱くようになったといいます。

Cさんは、人工関節置換術に関する情報を集める中で、さまざまな事例があり、成功した人のほうが多いものの、術後の経過が悪く車イスの生活になった人もいることを知りました。人工関節をさけたいというCさんの思いは、強くなる一方だったといいます。その後、20年もの間、右股関節の激痛と闘いつづけたCさん。安静時にも容赦なく激痛に襲われて眠ることもできず、「もう右脚はいらない」と切実に感じるほどだったといいます。

痛み止めの薬が手放せなくなっていたCさんが当院を訪れたときは、右股関節が末期股関節症の状態でした。「どうしても手術をさけたい」と必死で訴えるCさんに、私は足ゆらマシンで症状が改善する可能性があると説明しました。Cさんは右股関節の痛みから解放されたい一心で、座る機会があれば、足ゆらマシンを使用したといいます。すると、2ヵ月後から右股関節の激痛が軽減しはじめ、しだいに消失。1年半後に撮ったレントゲン写真では、右股関節のすき間が開いているようすが確認できたのです。まだ、靴下をはいたり、足のを切ったりするのが困難だというCさん。「一生、現状を維持できれば何もいうことはない」と喜ばれていましたが、可動域(動かすことができる範囲)の改善も十分に可能性があると説明しています。

Dさん(36歳・男性)は、生まれつき脚が不自由で、28歳のときにレントゲン検査を受けましたが、右股関節は正常でした。しかし、30代半ばになるころには、右股関節が末期の股関節症にまで悪化。歩くのも困難な状態だったDさんに、私は足ゆらマシンの使用をすすめました。Dさんは、毎日1時間足ゆらマシンを使用しました。ところが、期待に反し、1年たっても症状の改善が見られませんでした。そこで、足ゆらマシンの使用を1日2時間に増やすようにアドバイスしました。すると、4ヵ月後に撮ったレントゲン写真では、右股関節のすき間が開き、軟骨が再生しているようすがはっきりと確認できたのです。Dさんは、徐々に股関節の痛みから解放され、いまでは歩行能力も回復しました。

Eさん(59歳・女性)には、生まれつき臼蓋形成不全がありました。50代に入ってから、長距離を歩いた後や、重いものを持った後などに股関節の骨がきしむような痛みを覚えるようになったといいます。その後、Eさんの股関節の痛みは徐々に悪化。ズキズキした激痛に襲われ、ほかの病院で検査した結果、両股関節とも末期に近い進行期の変形性股関節症と診断されました。Eさんは、両側とも人工関節に置き換える手術をすすめられましたが、「なんとか手術を回避したい」と担当医に懇願したそうです。当面は痛み止めの薬を飲みながら、仕事を辞めて安静にしていたというEさん。しかし、股関節の痛みが治まることはなく、当院を訪れたときには、特に左股関節に痛みがひどく、10㍍歩くのもやっとの状態でした。

そこで私は、Eさんの症状の重い左股関節にはキアリ手術という温存手術を行い、右脚では貧乏ゆすりを行うようにすすめました。Eさんは2013年から足ゆらマシンを1日2時間を目安に使用。すると3ヵ月後には、右股関節の痛みが和らぎ、トイレ掃除や掃除機がけなどの家事がらくにこなせるようになったのです。その後も足ゆらマシンを使いつづけたEさん。股関節のすき間は年を追うごとに順調に開き、2017年に撮影したレントゲン写真では軟骨が再生しているようすがはっきりと確認できました。

足ゆらマシンで股関節の痛みやすり減った軟骨の状態が改善し、数多くの患者さんの生活の質(QOL)が向上したことは特筆に値します。股関節の温存手術を行う整形外科医が少なくなってきており、本来ならば温存手術が可能な状態であるにもかかわらず、人工関節の置換手術を早い段階ですすめられる患者さんが少なくないからです。人工関節には約20年という耐用年数があり、若いうちに置換すればするほど、入れ替え手術を受けるリスクが高まります。変形性股関節症の治療では、自分の股関節をいかに長く維持するかが重要なのです。足ゆらマシンの導入によって変形性股関節症の治療の選択肢が増えたことは、患者さんにとって非常に意義深いことだといえるでしょう。

足ゆらマシンは、過去に股関節の温存手術をし、再び悪化してきた患者さんにも有効です。臼蓋形成不全の程度が軽い場合は、変形性股関節症の進行を食い止めることも可能です。ただし、すでに人工関節に置き換えた脚では足ゆらマシンの使用を控えてください。臼蓋形成不全の程度が重度で、軟骨が再生しても荷重に耐えるだけの骨盤のくぼみ(臼蓋の水平面)の面積が十分に得られない場合は、温存手術が有効なケースもあります。温存手術で骨盤の形状異常を改善してから、足ゆらマシンを使用するように指導しています。

これまでの経験と観察から、変形性股関節症の患者さんが貧乏ゆすりを行うことで十分な治療効果が現れることがわかっています。しかし、貧乏ゆすりという保存療法を積極的に治療に取り入れている医療機関は、現在のところ全国的に見ても決して多いとはいえません。

そこで、貧乏ゆすりの学術的な検証をさらに進め、貧乏ゆすりという保存療法の普及を図るため、2016年3月に全国有数の著名な股関節専門の医師らとともにジグリング研究会を立ち上げました。ジグリング研究会の成果を日本から世界へ発信し、世界中の同じ疾患で苦しむ患者さんの治療に役立てることができれば、医師としてこれほど幸せなことはありません。

井上 明生先生(柳川リハビリテーション病院名誉院長)

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