股関節の痛みが改善!"貧乏ゆすり"で人工関節の手術を回避できるかもしれません
変形性股関節症は、脚のつけ根にある股関節の軟骨がすり減り、痛みや炎症が起こる病気です。変形性股関節症の治療には、大きく分けて次の3つの方法があります。
- ①保存療法...杖の使用、運動療法、薬物療法など
- ②温存手術...自分の骨を切って股関節の形状をよくする手術。自骨手術ともいう
- ③人工関節置換術...変形した股関節をそっくり取り除いて、人工関節に置き換える手術
私が提唱する変形性股関節症の保存療法は、イスに座って症状がある側の脚で「貧乏ゆすり(ジグリング)」を行うだけです(井上明生名誉院長の最新刊『「びんぼうゆすり」で変形性股関節症は治る!』)。最初に貧乏ゆすりを行ってもらった人は、2002年8月26日に手術をした末期の変形性股関節症のAさん(49歳・女性)でした。「どうしても人工関節をさけたい」といって、わざわざ北陸地方から九州まで来られた患者さんです。そこで、大腿骨と骨盤の温存手術を行いました。
しかし手術後、股関節のすき間は全然開きませんでした。関節軟骨がまったく再生してこない状態だったのです。しばらくようすを見ていましたが、3ヵ月、4ヵ月たってもダメ......。そこで、半信半疑ではありましたが、貧乏ゆすりをすすめてみたのです。すぐに股関節のすき間が開いた(関節軟骨が再生した)わけではありませんでしたが、その後、徐々にすき間が開き、1年もたつと見事なまでに関節軟骨が再生。痛みも消失したのです。これがきっかけとなって、ほかの患者さんにも貧乏ゆすりをすすめるようになりました。
Bさん(71歳・女性)は右股関節が関節症で、46歳のときに骨盤の骨を切って股関節の形状をよくする温存手術(キアリ手術)を受けました。手術は無事に終了し、術後15年以上、股関節の痛みと無縁の生活を送ってきました。しかしその後、右股関節周辺の痛みが再発し、徐々に悪化していったといいます。71歳のときには、右股関節が末期関節症の状態で、痛みも強く、人工関節に置換する手術もやむをえない状況でした。しかし、再度の手術をちゅうちょされたため、私はBさんに貧乏ゆすりをすることをすすめました。
Bさんはイスに座る機会があれば貧乏ゆすりを行い、自他ともに認めるほど一生懸命に取り組んだといいます。その結果、股関節周辺の痛みが徐々に軽快。股関節のすき間も開きはじめ、2年後に撮影したレントゲン写真では、股関節のすき間がはっきりと映り、軟骨の再生が確認できるまでに改善したのです。Bさんは、73歳になるいまでも人工関節の手術を受けることなく、元気に過ごされています。
変形性股関節症の治療では、最終手段として人工関節置換術が検討されます。確かに、人工関節置換術は痛みを取るという点では極めて有効な手段であり、「20世紀、整形外科最高の手術」といわれるくらい、変形性股関節症で悩む患者さんに恩恵をもたらしました。しかし、問題は人工関節の適応が広がりすぎたことです。自分の骨を使って治せる初期の変形性股関節症患者さんや、十分に修復力がある若い患者さんにまで「手術後に短期間で痛みを改善できる」「入院期間が短い」といった理由でいとも簡単に人工関節に置き換えられていることに問題があるのです。人工関節に置き換えた股関節は、二度と元の自分の股関節には戻せません。本来ならば、人工関節に置き換えずにすんだ患者さんがおおぜいいたかもしれないと思うと、私は「何かいい方法はないのか」と考えずにはいられませんでした。
長きにわたって整形外科医の間では「すり減った軟骨は再生しない」と信じられてきました。そんな中で、貧乏ゆすりによる変形性股関節症に対する改善効果は想像以上のものでした。貧乏ゆすりは、人工関節の早期導入を回避し、変形性股関節症患者さんの治療の選択肢を広げる希望の星といえるでしょう。
井上 明生先生(柳川リハビリテーション病院名誉院長)